もやもや病の概要
●ウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれます。
●脳を栄養する動脈が進行性に狭窄・閉塞する原因不明の疾患で、難病に指定されています。
●発症年齢は10歳前後と30歳前後が多いとされています。
●小児の患者さんは脳梗塞または脱力などの一過性脳虚血発作で発症することが多く、成人後は脳出血を起こすこともあります。
●頭痛を訴えられる患者さんも多くいます。
もやもや病が疑われた場合どうするか?
●MRI検査での診断が可能です。
●精密な検査のためにカテーテル検査が必要になることもあります。
●脳血流の評価のため、脳血流シンチグラフィー(SPECT)検査を行います。
●これらの検査でもやもや病と診断され、将来的な脳梗塞の危険が高いと判断された患者さんには治療のための手術を検討します。
●もやもや病と診断されても脳血流が保たれている患者さんや、症状のない患者さんの場合は、薬物治療や経過観察の方針となることがあります。
●脳出血で発症された患者さんに対しても、再発予防のための手術を検討することがあります。
●遺伝性が指摘されており、ご家族の方の検査をお勧めすることがあります。
●ご希望があれば、当院ではもやもや病感受性遺伝子(RNF213)の検査を行うことができます
もやもや病の治療方法
●治療は脳虚血発作の改善や脳梗塞の予防、脳出血で発症された場合は再出血の予防が目的となります。
●手術の方法は大きく分けて2種類あり、これらを組み合わせて行う複合血行再建術が一般的です。
Ⅰ. 血管吻合術(バイパス術)
●頭皮を栄養している浅側頭動脈と脳の表面を走る中大脳動脈の分枝を直接吻合する、浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術を行います。
●即効性の高い治療法です。
●足りていなかった脳血流が一気に増えるために手術後にてんかん発作や脳出血を起こすことがあり注意が必要です。
●浅側頭動脈が未発達であったり、脳の表面に細い動脈しかない場合は手術が難しいこともあります。
Ⅱ. 間接血行再建術。
●側頭部の頭蓋骨外にある側頭筋や骨膜をはがしそれを脳表面に直接接触させて新生血管の発達を促すことで脳血流を改善させる方法です。
●効果の発現までには数カ月かかりますが、比較的広い範囲の脳血流を回復させることができます。
●新生血管の発達の程度は個人差や年齢差があり、一般的に小児の患者さんの方が成人よりも発達が良好であることが知られています。
●バイパス術が難しい場合は間接血行再建術のみの手術を行うことがあります。
Ⅲ. 薬物治療
●手術後も虚血発作が続く患者さんや、年齢的に手術が難しい小児の患者さんには血液をさらさらにする薬剤(抗血小板剤)の処方を行うことがあります。
当院での症例数
●頭痛のある患者さんには鎮痛剤の処方や片頭痛に準じた治療を行います。
未破裂脳動脈瘤の概要
●脳動脈瘤という病気は脳の動脈の分岐部にできた動脈瘤という血管のコブができた状態です。
●成因は明らかではありませんが、加齢に伴いその頻度は上昇することが知られています。
●脳動脈瘤自体は無症状のことが多いのですが、まれに脳神経を圧迫して脳神経麻痺症状をきたすこともあります。
●脳動脈瘤でもっとも問題になるのは、壁が破れて出血し、くも膜下出血になるということです。
●これまで脳動脈瘤はくも膜下出血を生じた後に発見されることが多かったのですが、最近のMRIなどの診断技術の進歩で未破裂の段階で発見される機会が増加しています。 (報告によれば成人の数%程度に脳動脈瘤が存在するといわれています。)
未破裂脳動脈瘤の症状とは?
●破裂さえしなければ特に何の症状もなく通常通りの生活を送ることができます。
●しかし破裂すると、くも膜下出血となります。
●くも膜下出血を生じると約3分の1の人が死亡、3分の1の方に後遺症が残り、社会復帰可能なのは3分の1の方のみという非常に予後が悪いことが知られています。
未破裂脳動脈瘤の治療の必要性について
●2012年に発表された日本人のデータ(学会主催研究: UCAS Japan)では、全てのサイズを含んだ全体での破裂率は0.95%/年(1年間でおよそ100人に1人が破裂)でした。
●動脈瘤のサイズが大きいほど、また中大脳動脈瘤と比較して前交通動脈や後交通動脈にできた動脈瘤は破れやすいことがわかっています。
●さらに動脈瘤の形が不整の場合も注意が必要です。
●「脳卒中治療ガイドライン2021」によれば、5-7mm以上の動脈瘤は年齢を考慮したうえで治療を行うことが推奨されています。
●具体的にそれぞれの脳動脈瘤がいつ破裂するか、あるいは破裂しないかの予測は現在の医学水準では困難ですが、肝心なのは患者さん個々人における一生涯の破裂率です。
出典: 一般社団法人 日本脳神経外科学会ホームページより
(http://jns.umin.ac.jp/member/UCAS/ucas.html)
未破裂脳動脈瘤の治療方法について
1.開頭脳動脈瘤クリッピング術
●全身麻酔で行います。
●毛髪線内に皮膚切開を行い、開頭を行います。
●開頭後に顕微鏡下で脳の隙間にはくも膜という膜を丁寧に切開していきながら脳と脳の間を分け入ることによって目的とする動脈瘤に到達します。
●動脈瘤の周囲の神経や血管を十分に剥離・観察したのちに動脈瘤頚部(根元の部分)をチタン製のクリップではさみます
↑ 未破裂脳動脈瘤
↑ クリップ後
●近年ではフローダイバーター治療、パルスライダー、WEBなど新規デバイスも用いた治療も積極的に行なっています。
●これにより動脈瘤に血液が流れ込まなくなり、破裂の危険性はほとんどなくなります。
2.血管内治療(コイル塞栓術)
●血管の中から動脈瘤内にカテーテルを挿入しプラチナ製の柔らかいコイルを詰め、血流を遮断する治療法です。
●開頭術と比較したときの利点としては、局所麻酔で行うため全身麻酔のリスクがないこと(全身麻酔で行うこともあります)や、最も違うのは、「頭を切らずに治療する」ことです。
●最近ではこの方法で治療されることが多くなってきています。
●当科では動脈瘤の場所や周囲の血管構造、年齢や合併する疾患などを総合的に検討して、クリッピング術を専門に行う術者とコイル塞栓術を専門に行う術者が十分に協議したうえで、どちらが安全で確実に治療が可能かを決めています。
当院での症例数 (2017年ー2021年)
くも膜下出血の概要
●くも膜下腔に出血を起こした状態を指します。
●くも膜下腔とは脳表面の薄い膜(くも膜)と脳との間の空間で、脳脊髄液という脳を保護するための透明な液体で満たされています。
●年間の発症率は国や地域による差が認められます。
●日本では年間10万人当たり約20人の発症で、諸外国に比べると高い傾向にあり、近年女性での死亡率が増加してきています。
●症状としては突然起こる激しい頭痛と嘔吐が特徴的で、場合によっては意識を失うこともあります。
●来院時には出血は止まっている事が多いですが、24時間以内に再出血を起こすことが多く、死亡率は最初の出血で30%、再出血を起こすと50%と言われています。
●まれに出血が少量のため症状が軽く、病院を受診しない患者さんもおられます。
●しかし、再出血を起こす可能性があるため、未治療の状態で放置することは危険です。
●くも膜下出血の原因のおよそ80%が、脳動脈瘤(脳内の動脈にできた瘤)です。他には、脳動静脈奇形、 硬膜動静脈瘻、もやもや病などが原因となります。
くも膜下出血が疑われた場合どうするか?
●まずは診断を確定させます。
●一般的には頭部のCT、MRIで殆どが診断可能です。
●発症24時間以内のCTでの診断率が92%との報告もあります。
●それでも診断がつかない場合は背中に針を刺して脳脊髄液を採取し、血液が混入していることを確認することで診断がつきます。
●次に出血の原因を確認するため、引き続き造影CTや脳血管撮影(DSA)検査を行います。
●出血の原因がはっきりしない場合、時間をおいて再検査を行います。
●それにより画像所見の変化が見つかり、出血の原因が明らかになることがあります。
●最終的な治療適応は画像の所見と患者さんの症状を考慮して決定します。
くも膜下出血の治療方法
①内科的治療
●出血の原因となった病気の内容に関わらず、内科的な治療法は殆ど一緒です。
●まず再出血を防ぐため、目に入る光の刺激を避けて暗所で安静を保ち、点滴や内服によって血圧や頭痛の管理を行います。
●くも膜下出血後の4日から14日は脳血管の攣縮によって脳梗塞を起こすリスクがあるため、脳血管の攣縮予防薬を投与します。
●後遺症がある場合、機能回復のためのリハビリテーションを行います。
②外科的治療
●出血の原因となった病気ごとに、外科的治療法の選択は様々です。
●基本的には①開頭手術、②血管内手術(カテーテル治療)を単独もしくは組み合わせて行います。
●下記のリンク先で、くも膜下出血の原因となる病気について詳しく説明しています。
(→脳動脈瘤、
脳動静脈奇形、
硬膜動静脈瘻、
もやもや病)
●くも膜下出血に頻繁に合併する水頭症という病気について
脳脊髄液は脳室の中にある脈絡叢という場所で1日500mlほど産生され、くも膜下腔にあるくも膜顆粒という組織まで流れて吸収されます。
くも膜下出血によりその流れが悪くなると、脳脊髄液が蓄積して脳室が拡大し、水頭症という病気になる事があります。水頭症の治療として、脳脊髄液の流れを改善させるために脳室ドレナージ、シャント形成術、第三脳室開窓術を行うことがあります
脳出血の概要
●脳出血は脳溢血(いっけつ)とも呼ばれ、脳内の血管が破れる事で生じる病気です。
●破れた血管から漏れた血液は塊(血腫)となり、周囲の脳や血管を圧迫します。
●出血した場所や血腫の大きさによって、頭痛、嘔吐、めまい、手足が動かしにくい、言葉が出にくいなど、様々な症状を起こします。
●脳出血の原因として一番多いのが高血圧性です。全体の約8割を締め、動脈硬化によって脆くなった血管に高血圧の負荷が伴い、血管が破れる事で発症します。
●近年は生命に関わる脳出血を発症する患者さんの数は減っており、死亡率が減少しています。
●その理由として、降圧剤の進歩や生活習慣の改善による動脈硬化の減少が影響していると言われています。
●一方で、半身不随や言語障害など重大な後遺症をもたらす事が多く、日常生活への復帰が困難になることが大きな問題点となっています。
●高血圧性以外の原因としては脳動脈瘤、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、もやもや病、海綿状血管腫、アミロイド血管症、などがあります。
脳出血が疑われた場合どうするか?
●頭部のCTやMRIによって脳出血の診断が確定します。
●脳出血の原因を明らかにするため、造影CT、脳血管撮影(DSA)検査を行うこともあります。
●画像の所見と患者さんの症状を考慮し、治療適応があるかどうか決定します。
脳出血の治療方法
①内科的治療
●脳出血は内科的治療が原則です。
●安静をたもち、血圧の管理、脳のむくみ対策、止血剤の投与、輸液・栄養管理、消化管出血の管理、深部静脈血栓症の予防、褥瘡の予防、などを行います。
●また、脳出血は発症時に脳細胞が破壊されるため、血腫が消退しても脳機能が回復するわけではありません。
●そのため、脳機能の障害を緩和するために長期間のリハビリテーションを必要とすることがあります。
②開頭手術
●血腫はいずれ周囲の脳組織に吸収されますが、血腫の量が多い場合、被殻出血・皮質下出血・小脳出血というタイプの脳出血では、開頭手術によって血腫を除去することがあります。
●血腫除去の目的は、血腫による脳組織の圧迫を解除することが第一です。
●それによって、生命の危機を脱する、または早期のリハビリテーションが可能となり後遺症の軽減が期待できる、などの効果があります。
●全身麻酔下で頭皮を切開し、血腫の存在する直上の頭蓋骨を外し、脳神経外科用の顕微鏡を用いて血腫除去を行います。
●近年では、神経内視鏡という3~5mm程の太さの管を用いた低侵襲手術で血腫除去を行うこともあります。
③その他
●脳出血の原因が高血圧性以外の場合、上記に追加治療を行う事で脳出血の再発を予防できることがあります。
●下記リンク先で、それらの病気について詳しく説明しています。
(→
脳動脈瘤、
脳動静脈奇形、
硬膜動静脈瘻、
もやもや病、
海綿状血管腫)
脳梗塞の概要
●脳梗塞とは、脳の血管が何らかの原因で狭くなったり(狭窄)、詰まること(閉塞)によりその先の脳細胞に血液が行き渡らなくなるため、脳細胞が死んでしまう病気です。
●死んでしまった脳細胞の領域により、重要な場所であれば手足の麻痺や言語障害が出現し後遺症として残存します。
脳梗塞の種類
脳梗塞の種類は大きく分けて3種類あります。
① ラクナ梗塞
●脳深部の直径1mm以下の細い血管が詰まる脳梗塞です。
●小さな脳梗塞でも重要な領域に関与した場合は、麻痺や感覚障害の症状が出現します。
●このタイプの脳梗塞を発症した場合は、薬物治療が中心となります。
② アテローム性血栓性脳梗塞
●動脈硬化の進行によって中等度の血管が狭くなり、血流の低下や血管に付着したプラークが脳の血管に飛ぶことによって発症する脳梗塞です。
●ラクナ梗塞より広い領域が障害されるため、麻痺や言語障害と行った症状が出現します。
●このタイプの脳梗塞は、脳梗塞発症の原因検索を行い治療方法を決定します。
✓頸部内頸動脈に狭窄がある場合は頸動脈ステント留置術や頸動脈内膜剥離術といった外科的治療を行います(頸動脈狭窄について 参照)。
✓脳の血管に狭窄や閉塞がある場合は、血管形成術(カテーテル治療)や血管吻合術といった外科的治療を行います(頭蓋内動脈狭窄について 参照)。
内頸動脈狭窄
頭蓋内動脈狭窄
③ 心原性脳塞栓症
●心房細動と言われる不整脈があると、一定のリズムで心臓が動かなくなるため、心臓内に血液のよどみができます。
●よどみが原因で血液が固まり、血液の流れに乗って脳血管に血栓が飛んでいきます。血栓は大きく血管が急に詰まるため、症状は突然出現し意識障害や重度麻痺といった重い症状が出現します。
●発症から時間が経過していない(目安:6時間以内)場合や、時間が経過していても脳細胞が死んでいる領域が比較的狭い場合は、カテーテルで血栓を除去する機械的血栓回収療法という治療を行います(AIS・血栓回収療法について 参照)。
心原性脳塞栓症
脳梗塞の原因は?
脳の血管が詰まる原因は大きく分けて二つあります。
●血栓性:動脈硬化によって徐々に血管の中が狭くなり閉塞に至ります。
高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満などが発症リスクと考えられています。
●塞栓性:血液の塊(血栓)が突然血管に飛ぶことにより閉塞に至ります。
多くは心臓の不整脈(心房細動)が原因で、心臓が一定のリズムで動かなくなることによって心臓内に血液のよどみができ血栓が形成されます。
脳梗塞の症状は?
以下は代表的な症状になります。
このような症状が出現した場合は、救急車を呼ぶことをお勧めします。
●手足の脱力(麻痺)
●半身の痺れ、感覚の鈍さ(感覚障害)
●言語障害:言葉が出ない、会話が成立しない
●構音障害:呂律が回らず聞き取れない
●突発性のめまいで歩けない
症状は基本的に持続しますが、一時的に症状が出現し、数分から数時間(多くは24時間以内)の経過で消失する場合があります。
これを一過性脳虚血発作(TIA)と呼び、脳梗塞の前段階と考えられています。
TIAを発症した場合、90日以内に脳梗塞が起きる確率は15-20%と言われているため、症状がなくなっても受診をお勧めします。
脳梗塞の治療
脳梗塞の原因により治療法が異なります。
また治療により症状が改善や再発予防を目指します。
以下のタブを選択すると詳細な情報が確認できます。
1.頚部内頸動脈狭窄
2.頭蓋内動脈狭窄症
3.急性期頭蓋内主管動脈閉塞
頭蓋内動脈狭窄の概要
●脳を栄養する血管の内腔が狭くなると血流が悪くなり、脳が虚血状態となって、様々な症状を生じることがあります。
●症状は一時的な場合(一過性脳虚血発作)と永久的な場合(脳梗塞)があります。脳梗塞を発症すると、その部位に応じた神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害)を呈します。
頭蓋内動脈狭窄の原因は?
●高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化増強因子により、脳内の血管の動脈硬化が進み、内腔が狭くなります。
頭蓋内動脈狭窄の治療方法
① 内科的治療
●高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化増強因子のコントロールを行います。
●狭窄部に生じる血栓形成予防のため、抗血小板療法を行います。
② 血行再建術
●内科的治療を行っているにも関わらず、脳虚血症状が出現する方においては、年間10-24%で脳梗塞が新たに発生すると言われています。
●脳虚血症状を呈する頭蓋内動脈狭窄の方に対する治療法が、血行再建術であり、直達手術と血管内治療があります。
I. 直達手術
●全身麻酔下で、開頭して狭窄部より末梢の血流が落ちている脳血管に、頭皮の血管を吻合し、血流を担保します。。
●73歳以下で日常生活が自立していて、脳血流量が正常値の80%未満など、一定の条件を有する方に対して、有効性が示されています。
II. 血管内治療
●レントゲン透視画像を見ながら行います。
●足の付け根のところに局所麻酔薬を注射して、動脈を穿刺します。
●そこから拡張用のバルーン(風船)カテーテルを脳内の狭くなっている血管まで挿入して、バルーンを膨らませて血管を拡げます。
●バルーンを膨らませても十分に拡がらない場合や、拡張した血管が短時間のうちに再狭窄してしまう場合は、ステントと呼ばれる金属の網目状の円筒を留置します。
●近年の研究では、脳虚血症状を呈する70%以上の狭窄に対し、症例数の豊富な施設でステント留置術を行った場合、内科的治療よりも1年間での脳梗塞発症率が低く抑えられることが報告されています。
当院での症例数 (2017年ー2021年)
頚動脈狭窄症の概要
●心臓から脳に血液を送る主要な通り道である頚部の動脈が狭くなることを「頚動脈狭窄症」と言います。
●これが原因で脳血流の低下をきたす、もしくは狭窄部からの脂肪や血栓などの飛散により脳梗塞の原因となる可能性があります。
●頚動脈狭窄症の多くは動脈硬化等が原因です。
●動脈硬化は血管の壁の厚みが増す現象で、コレステロールなどの脂肪からなる粥状(じゅくじょう)硬化巣である「プラーク」が形成されることがあります。
●同じ厚さのプラークでも線維成分が多い安定プラークと、脂肪成分が多い不安定プラークがありますが、不安定プラークは特に脳梗塞を引き起こす危険性が高いため積極的な治療が必要です。
頚動脈狭窄症が疑われた場合どうするか?
●一過性脳虚血発作や脳梗塞を発症して初めて頚動脈狭窄症が発見されることが多いです。
●脳ドックなどの頚動脈超音波で無症候性の狭窄が指摘されることもあります。
●狭窄部の詳細な評価のために、造影CTや頭頚部MRIを撮影することがあります。
頚動脈狭窄症の治療方法
① 内科治療
●まずは禁煙・節酒、高血圧、糖質代謝異常、脂質異常などの動脈硬化の危険因子の管理を行います。
●プラーク安定化(脂肪を飛散させにくくすること)を図るために高脂血症薬を内服してもらうことがあります。
●必要に応じて抗血小板薬(血液をさらさらにしてプラーク表面に血栓が付着しにくくする薬剤)も内服します。
② 外科治療
●狭窄率が高い場合には脳梗塞予防として外科治療を検討した方が良い場合があります。
●脳卒中治療ガイドライン(2021)によると、症候性の病変で狭窄率が70%以上の場合には上記内科治療に加えて外科治療を行うことは妥当とされています。
●無症候性の場合、高度狭窄であることに加えて脳卒中高リスクである病変に対して外科的治療を行うことは妥当とされています。
●外科治療には以下の2種類があります。
●それぞれ一長一短であり、どちらが適しているかは病態や全身的・解剖学的要因により個別に判断されます。
I. 頚動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy: CEA)
●CEAは全身麻酔ののちに頚部皮膚を切開して頚動脈を露出、その後顕微鏡を用いてプラークそのものを摘出(図1-2)し、狭窄を解除(図3)する治療です。
●手術に伴う脳梗塞の発症率は低く、CASが苦手とする柔らかいプラークや全身血管の蛇行が強い場合にも施行可能というメリットがあります。
●全身麻酔の負担があること、首に傷が残るなどのデメリットがあります。
II. 頚動脈ステント留置術(Carotid artery stenting: CAS)
●ステントという金属メッシュを円筒状にした機材(図1)を留置して狭窄を解除する治療です。
●足の付け根から(血管形状によっては腕から)カテーテルという管を挿入し、治療中にプラークが飛散しないように工夫をした上で狭窄部を風船状のカテーテルで拡張した後、ステントを展開します(図2〜5)。
●局所麻酔で施行可能なこと、首に傷が残らないメリットがあります。
●CEAと比較して術後脳梗塞が発症しやすい、造影剤(血管撮影に使用する薬剤)を使用するため腎臓の悪い患者さんには注意が必要である、抗血小板薬をしばらく(半年から1年程度)継続しなくてはいけないデメリットがあります。
当院での症例数 (2017年-2021年)
頚動脈狭窄症の件数は以下の通りです。
急性期再開通療法
●脳梗塞になったら、できるだけ早期に治療を受けることが重要です。
●脳の血流が血の塊(血栓)によって遮断され、脳梗塞が完成してしまった場合には、一度破壊された脳細胞は、元に戻ることがありませんので大きな後遺症を残してしまいます。
●できるだけ早く治療を開始し、脳のダメージを抑えることが大事になりますし、発症治療開始までの時間が短いと実施できる治療法の選択肢が広がります。
●治療法には二つの方法【tPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)静注療法、血栓回収療法】があり、患者様の症状や時間経過、そのほかの条件により治療法を選択することになります。
tPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)静注療法
●tPAとは薬剤の名前で、血液をさらさらにして詰まった血栓を溶かす作用があり、静脈から点滴することにより、脳血管の血栓を溶かし、再度血液が流れるようにする治療です。
●この治療の弱点は時間制限があることや出血を引き起こすリスクがあり、4.5時間以内に治療を開始せねばならず、時間を超えてしまうと出血リスクが増大してしまうため投与することはできません。
●また、強力に血液をサラサラにするため脳出血や他の臓器からの出血リスクが高くなり、投与するにはさまざまな条件をクリアしなければならないです。
●条件をクリアしても脳の太い血管が詰まっている場合などは再開通が得られにくく、症状が良くならない可能性もあり、その場合には血栓回収療法に移行することもあります。
血栓回収療法
●tPA療法によって症状の改善が認められない場合や、tPA療法の適応外の症例に対してカテーテルを用いた血栓回収療法という血管内治療が行われます。
●局所麻酔下に大腿動脈(下肢の付け根の動脈)から太いカテーテルを挿入し、血管内において血栓の近くまでカテーテルを持っていき、特殊な機器(吸引カテーテル、血栓回収用ステント)を用いて血栓を体外に回収するというものです。
血栓で閉塞しており先の血管が描出されない。
血栓回収療法により再開通を得た。
血栓回収療法の手術方法
●この治療はステントという血栓を捕捉する網目状の金属性の機器を頭の血管の中で広げて詰まった血栓をからめ取る方法と、吸引カテーテルを用いて掃除機のように血栓を吸引する方法、または両者を組み合わせて行う方法があります。
●血栓回収療法の治療効果に関しては文献により様々ですが、80%前後の患者様で再開通が得られ、早期に完全な再開通を得られるほど神経症状の改善が認められます。
●再開通率は非常に高い値ですがこれは8割の人の症状が完全に治るという意味ではなく、発症時より症状が改善する例もありますが,開通しても症状が不変,悪化する可能性もあります。
●しかし,大規模な臨床試験において,この治療を受けない場合よりも治療を受けた場合の方が,将来の日常生活レベルが良くなることが証明されています。
●血栓回収療法における最も大きな合併症は治療後におこる脳出血(出血性梗塞ともいいます)であり、これはすでに死んでしまってもろくなった脳(完全に梗塞になってしまった脳)に血流を再開させたために起こり、ときに致死的な脳出血となることもあります。
●治療によって新たに脳梗塞が起こる確率は1.3%,治療によって脳出血が新たに起こる確率は6.0%と言われています。
●他にもカテーテル穿刺部の血腫や腹腔内出血や後腹膜出血など起こす可能性もあります。
当院での血栓回収実施数 (2015年ー2020年)
●当院でのtPA静注療法を除く血栓回収実施数は以下の通りです。