急性期再開通療法
●脳梗塞になったら、できるだけ早期に治療を受けることが重要です。
●脳の血流が血の塊(血栓)によって遮断され、脳梗塞が完成してしまった場合には、一度破壊された脳細胞は、元に戻ることがありませんので大きな後遺症を残してしまいます。
●できるだけ早く治療を開始し、脳のダメージを抑えることが大事になりますし、発症治療開始までの時間が短いと実施できる治療法の選択肢が広がります。
●治療法には二つの方法【tPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)静注療法、血栓回収療法】があり、患者様の症状や時間経過、そのほかの条件により治療法を選択することになります。
tPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)静注療法
●tPAとは薬剤の名前で、血液をさらさらにして詰まった血栓を溶かす作用があり、静脈から点滴することにより、脳血管の血栓を溶かし、再度血液が流れるようにする治療です。
●この治療の弱点は時間制限があることや出血を引き起こすリスクがあり、4.5時間以内に治療を開始せねばならず、時間を超えてしまうと出血リスクが増大してしまうため投与することはできません。
●また、強力に血液をサラサラにするため脳出血や他の臓器からの出血リスクが高くなり、投与するにはさまざまな条件をクリアしなければならないです。
●条件をクリアしても脳の太い血管が詰まっている場合などは再開通が得られにくく、症状が良くならない可能性もあり、その場合には血栓回収療法に移行することもあります。
血栓回収療法
●tPA療法によって症状の改善が認められない場合や、tPA療法の適応外の症例に対してカテーテルを用いた血栓回収療法という血管内治療が行われます。
●局所麻酔下に大腿動脈(下肢の付け根の動脈)から太いカテーテルを挿入し、血管内において血栓の近くまでカテーテルを持っていき、特殊な機器(吸引カテーテル、血栓回収用ステント)を用いて血栓を体外に回収するというものです。
血栓回収療法の手術方法
●この治療はステントという血栓を捕捉する網目状の金属性の機器を頭の血管の中で広げて詰まった血栓をからめ取る方法と、吸引カテーテルを用いて掃除機のように血栓を吸引する方法、または両者を組み合わせて行う方法があります。
●血栓回収療法の治療効果に関しては文献により様々ですが、80%前後の患者様で再開通が得られ、早期に完全な再開通を得られるほど神経症状の改善が認められます。
●再開通率は非常に高い値ですがこれは8割の人の症状が完全に治るという意味ではなく、発症時より症状が改善する例もありますが,開通しても症状が不変,悪化する可能性もあります。
●しかし,大規模な臨床試験において,この治療を受けない場合よりも治療を受けた場合の方が,将来の日常生活レベルが良くなることが証明されています。
血栓で閉塞しており先の血管が描出されない。
血栓回収療法により再開通を得た。
●血栓回収療法における最も大きな合併症は治療後におこる脳出血(出血性梗塞ともいいます)であり、これはすでに死んでしまってもろくなった脳(完全に梗塞になってしまった脳)に血流を再開させたために起こり、ときに致死的な脳出血となることもあります。
●治療によって新たに脳梗塞が起こる確率は1.3%,治療によって脳出血が新たに起こる確率は6.0%と言われています。
●他にもカテーテル穿刺部の血腫や腹腔内出血や後腹膜出血など起こす可能性もあります。
当院での血栓回収実施数 (2015年ー2020年)
●当院でのtPA静注療法を除く血栓回収実施数は以下の通りです。
頭蓋内動脈狭窄の概要
●脳を栄養する血管の内腔が狭くなると血流が悪くなり、脳が虚血状態となって、様々な症状を生じることがあります。
●症状は一時的な場合(一過性脳虚血発作)と永久的な場合(脳梗塞)があります。脳梗塞を発症すると、その部位に応じた神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害)を呈します。
頭蓋内動脈狭窄の原因は?
●高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化増強因子により、脳内の血管の動脈硬化が進み、内腔が狭くなります。
頭蓋内動脈狭窄の治療方法
① 内科的治療
●高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化増強因子のコントロールを行います。
●狭窄部に生じる血栓形成予防のため、抗血小板療法を行います。
② 血行再建術
●内科的治療を行っているにも関わらず、脳虚血症状が出現する方においては、年間10-24%で脳梗塞が新たに発生すると言われています。
●脳虚血症状を呈する頭蓋内動脈狭窄の方に対する治療法が、血行再建術であり、直達手術と血管内治療があります。
I. 直達手術
●全身麻酔下で、開頭して狭窄部より末梢の血流が落ちている脳血管に、頭皮の血管を吻合し、血流を担保します。。
●73歳以下で日常生活が自立していて、脳血流量が正常値の80%未満など、一定の条件を有する方に対して、有効性が示されています。
II. 血管内治療
●レントゲン透視画像を見ながら行います。
●足の付け根のところに局所麻酔薬を注射して、動脈を穿刺します。
●そこから拡張用のバルーン(風船)カテーテルを脳内の狭くなっている血管まで挿入して、バルーンを膨らませて血管を拡げます。
●バルーンを膨らませても十分に拡がらない場合や、拡張した血管が短時間のうちに再狭窄してしまう場合は、ステントと呼ばれる金属の網目状の円筒を留置します。
●近年の研究では、脳虚血症状を呈する70%以上の狭窄に対し、症例数の豊富な施設でステント留置術を行った場合、内科的治療よりも1年間での脳梗塞発症率が低く抑えられることが報告されています。
当院での症例数 (2017年ー2021年)
脳梗塞の概要
●脳梗塞とは、脳の血管が何らかの原因で狭くなったり(狭窄)、詰まること(閉塞)によりその先の脳細胞に血液が行き渡らなくなるため、脳細胞が死んでしまう病気です。
●死んでしまった脳細胞の領域により、重要な場所であれば手足の麻痺や言語障害が出現し後遺症として残存します。
脳梗塞の原因は?
脳の血管が詰まる原因は大きく分けて二つあります。
●血栓性:動脈硬化によって徐々に血管の中が狭くなり閉塞に至ります。
高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満などが発症リスクと考えられています。
●塞栓性:血液の塊(血栓)が突然血管に飛ぶことにより閉塞に至ります。
多くは心臓の不整脈(心房細動)が原因で、心臓が一定のリズムで動かなくなることによって心臓内に血液のよどみができ血栓が形成されます。
脳梗塞の症状は?
以下は代表的な症状になります。
このような症状が出現した場合は、救急車を呼ぶことをお勧めします。
●手足の脱力(麻痺)
●半身の痺れ、感覚の鈍さ(感覚障害)
●言語障害:言葉が出ない、会話が成立しない
●構音障害:呂律が回らず聞き取れない
●突発性のめまいで歩けない
症状は基本的に持続しますが、一時的に症状が出現し、数分から数時間(多くは24時間以内)の経過で消失する場合があります。
これを一過性脳虚血発作(TIA)と呼び、脳梗塞の前段階と考えられています。
TIAを発症した場合、90日以内に脳梗塞が起きる確率は15-20%と言われているため、症状がなくなっても受診をお勧めします。
脳梗塞の種類
脳梗塞の種類は大きく分けて3種類あります。
① ラクナ梗塞
●脳深部の直径1mm以下の細い血管が詰まる脳梗塞です。
●小さな脳梗塞でも重要な領域に関与した場合は、麻痺や感覚障害の症状が出現します。
●このタイプの脳梗塞を発症した場合は、薬物治療が中心となります。
② アテローム性血栓性脳梗塞
●動脈硬化の進行によって中等度の血管が狭くなり、血流の低下や血管に付着したプラークが脳の血管に飛ぶことによって発症する脳梗塞です。
●ラクナ梗塞より広い領域が障害されるため、麻痺や言語障害と行った症状が出現します。
●このタイプの脳梗塞は、脳梗塞発症の原因検索を行い治療方法を決定します。
✓頸部内頸動脈に狭窄がある場合は頸動脈ステント留置術や頸動脈内膜剥離術といった外科的治療を行います(頸動脈狭窄について 参照)。
✓脳の血管に狭窄や閉塞がある場合は、血管形成術(カテーテル治療)や血管吻合術といった外科的治療を行います(頭蓋内動脈狭窄について 参照)。
内頸動脈狭窄
頭蓋内動脈狭窄
③ 心原性脳塞栓症
●心房細動と言われる不整脈があると、一定のリズムで心臓が動かなくなるため、心臓内に血液のよどみができます。
●よどみが原因で血液が固まり、血液の流れに乗って脳血管に血栓が飛んでいきます。血栓は大きく血管が急に詰まるため、症状は突然出現し意識障害や重度麻痺といった重い症状が出現します。
●発症から時間が経過していない(目安:6時間以内)場合や、時間が経過していても脳細胞が死んでいる領域が比較的狭い場合は、カテーテルで血栓を除去する機械的血栓回収療法という治療を行います(AIS・血栓回収療法について 参照)。
心原性脳塞栓症
血管奇形(その他)の概要
●血管の異常は、血管腫と血管奇形に大きく分けられます。
●血管腫は、血管性の腫瘍であり、乳幼児・小児期に認めるものが多く、基本的には成人にはありません。乳児血管腫(苺状血管腫)、先天性血管腫、カポジ肉腫様血管内皮腫などです。
●ヒトの体が出来上がるときに脈管(血管やリンパ管)が形成されますが、その過程の調整異常に起因する血管の異常です。
●通常は孤発性ですが、遺伝性のものもあります。毛細血管奇形・リンパ管奇形・静脈奇形・動静脈奇形やその混合があります。
●単純病変だけではなく、多発するものもあります。
●多発する場合は、いくつかの症候群に分けることができ、代表的なものを列挙すると、脳脊髄病変を合併しやすいSturge-Weber症候群、Wyburn-Mason症候群(Bonnet-Dechaume-Blanc症候群)、Cobb症候群、足の肥大を伴うKippel-Trenaunay症候群, Parkes Weber症候群などがあります。
●徐々に遺伝子変異が原因であることが判明してきている疾患群もあります。代表的な疾患としてはOsler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症:HHT)、Parkes-Weber症候群、Cowden病などがあります。今後、その遺伝子変異に対する遺伝子治療や分子標的創薬の可能性があると考えられています。
血管奇形が疑われた場合どうするか?
●症状があるため精査し見つかることもありますし、脳ドックのMRIなどで偶然見つかることもあります。
●CTやMRIなどの画像検査と年齢・症状でおおよそ診断できることが多いです。
●更に細かく血管の情報の精査を行いたい場合は、DSA(血管撮影)検査を行うこともあります。
●無症候性のこともありますので慎重に治療適応があるかどうか決定します。薬剤による治療はありませんので、必要であれば外科的手術を行うことを検討します。
●他の臓器の奇形や血管奇形などを伴うこともあるため、他の診療科ともよく相談すること重要です。
血管奇形の治療方法
●それぞれの疾患や病期によって治療方法は異なります。
●薬物治療・レーザー治療・外科的切除・血管内治療があります。
●また治療方法だけではなく、適切な治療開始時期や、治療後の再発評価など長期に渡って経過観察することが重要です。
●形成外科・耳鼻科・放射線科など関連各科と連携しながら治療に当たります。
① 血管内手術(カテーテル治療)
●皮膚を切らずにできる治療法です。
●血管撮影室でレントゲンを見ながら,カテーテルを用いて血管の中から治療します。
●頭皮・顔面の血管奇形は体表に近いことから、直接血管に針を刺すことで治療することもできます。
●塞栓物質はプラチナ製の柔らかい金属製コイルやNBCAに代表される液体の塞栓物質、エンボスフィアに代表される粒状塞栓物質があります。
●他に使用しうるポリドカノール・無水アルコールなどです。
●血管奇形のには経静脈的なと、経動脈的ながあります。
② レーザー治療・外科的切除
●部位に応じて、形成外科や耳鼻咽喉科と相談することになります。
当院での症例数 (2017年-2020年)
当科で担当した血管奇形(その他)の手術件数は以下の通りです。
硬膜動静脈瘻の概要
●硬膜動静脈瘻は比較的稀な脳や脊髄などに生じる血管障害の一つであり、動脈血が静脈に直接流れ込む(シャント性)疾患です。
●比較的高齢の方に多く見られますが、若い方でも診断されることのあります。
●静脈の血圧上昇や静脈血栓症、ホルモンの影響、外傷・手術の影響など多くの後天的な原因が報告されています。
●静脈内部の圧が高くなり、逆流を起こして出血やうっ血を起こすことで症状が出ます。
●脳出血やくも膜下出血を起こすこともあります。後遺症に繋がることや致命的になることも有り得ます。
●目の奥の海綿静脈洞部や耳の横の横静脈洞などに出来やすいです。
●意識障害、手足の麻痺、頭痛や吐き気、痙攣、視力低下・目の突出・ものが二重にみえる、耳鳴りなどの症状がでることがあります。
硬膜動静脈瘻が疑われた場合どうするか?
●症状が出現したために精査し見つかることもありますし、脳ドックのMRIなどで偶然見つかることもあります。
●CTやMRIなどの画像検査のみでおおよそ診断できることが多いです。
●分かりづらい場合や治療を計画するときにはDSA(血管撮影)検査を行うこともあります。
●これらの画像検査で静脈への逆流の程度や患者さんの症状を考慮し、治療適応があるかどうか決定します。
●薬剤による治療はありませんので、必要であれば外科的手術を行うことを検討します。
硬膜動静脈瘻の治療方法
1)血管内治療による,2),3)開頭による血管遮断術を単独もしくは組み合わせることで治療することになります。
一部の部位では開頭術が第一選択となりますが,多くの部位では血管内治療によるが第一選択となります。
① 血管内手術(カテーテル治療)
●皮膚を切らずにできる治療法です。
●血管撮影室でレントゲンを見ながら,カテーテルを用いて血管の中から治療します。
●一般的には経静脈的により異常な血管が流れ込んでいるをさせてしまうことが根治術となりますが,そのにたどり着けない時や,正常な脳の血流がそのを使って還流している場合にはをさせることができないため,流入している動脈からさせます。
●いずれの方法も脳を直接触ることのない低な方法で,高齢者にも適応できることが多く、治療直後からその効果が期待できます。
●塞栓物質はプラチナ製の柔らかい金属製コイルやOnyxに代表される液体の塞栓物質、エンボスフィアに代表される粒状塞栓物質があります。
●当院では、多くの症例は局所下で治療しております。
●年齢や全身状態、する血管の位置によっては全身が必要になります。
●日本国内の統計では血管内治療による率は83%と報告されています。
② 開頭手術
●開頭術はテント部・前頭蓋底部などに行われることが多いです。
●直後から治療効果が期待できます。
●場所によっては手術の難易度が高くなります。
③ 放射線治療
●ガンマナイフ・サイバーナイフなどのは,に集中的に放射線をあてて,の血管壁を肥厚させ自然に異常血管を詰まらせてしまう方法です。
●まわりの正常な脳への影響はほとんどありませんが、放射線の効果は徐々に現れるので,が消失するまでには年単位の時間がかかることが多いです。
●そのため、第一選択ではなく、他の方法が困難な場合に選択されることが多いです。
当院が参加した、もしくは参加している硬膜動静脈瘻の臨床試験
●国内主要施設で硬膜動静脈瘻に対する液体塞栓物質の治験が行われ、参加しています。
(Onyx; UMIN-000013143, 2013-2015)
現在はPH01-2の医師主導治験にも参加しています。
●また術後の登録研究である「硬膜動静脈瘻に対するOnyx液体塞栓システムを用いた経動脈塞栓術に関する多施設共同登録研究(Onyx dAVF TAE Registry)」(UMIN-000034344)にも参加しています。
当院での症例数 (2017年-2021年)
脊髄病変などは除き、頭蓋内硬膜動静脈瘻の件数は以下の通りです。
脊髄動静脈奇形の概要
●髄動静脈奇形とは脊椎(背骨)の中で毛細血管を介さずに動脈と静脈が直接交通(シャントと言います)する病気の総称です。
●以前から様々な分類や呼称が提唱されてきましたが、画像診断技術の進歩に伴い詳細な血管解剖やシャントの発生部位を把握することが可能となり、現在はおもに下記の4種類(表1)に分類されます。
一番多いのは脊髄硬膜動静脈瘻といい硬膜という脊髄を覆う膜の層内で動脈と静脈がシャントするタイプです。
それ以外に、硬膜の外側や脊髄表面でシャントするタイプ、脊髄内部にシャントを含む異常血管の塊(ナイダスと言います)を伴うタイプ(脊髄髄内動静脈奇形)に区分されます。
いずれも圧の高い動脈血が脊髄の静脈に逆流することで様々な問題を引き起こします。
●多くの場合は原因不明です。
脊髄髄内動静脈奇形は先天的な問題(出生時に存在)とも考えられていますが、明確には分かっていません。
脊髄硬膜動静脈瘻は後天的な要因として外傷や手術などの関与も指摘されていますが定かではありません。
脊髄動静脈奇形が疑われる症状
●症状が出現する原因として下記理由があります。
①シャント周囲の正常な血液の流れが悪くなり脊髄がむくんで腫れる(血液循環障害)。
②壁の薄い静脈が風船のように膨らみ(静脈瘤)、脊髄を圧迫する。
③圧のかかった静脈や静脈瘤が破れて出血する。
①、②:両下肢の筋力低下、痺れ、排尿・排便障害などの神経症状をきたします。
通常、これらの症状は月単位で進行してきます。
③:タイプにより出血様式が異なり、脊髄硬膜・脊髄辺縁部動静脈瘻でくも膜下出血を、脊髄髄内動静脈奇形で脊髄髄内出血を起こすことがあります。
いずれのタイプも出血時に突然症状が出現し、特に脊髄髄腔内出血の場合は永続的な後遺症が残ることがあります。
くも膜下出血:突然の頚部痛、背部痛
脊髄髄内出血:突然の手足の運動麻痺、感覚障害、排尿・排便障害
脊髄動静脈奇形が疑われた場合どうするか?
●造影CT検査や単純・造影MRI検査でおおよそ診断がつきますが、正確なシャント位置やタイプの同定、治療方針を検討する上で脊髄血管撮影検査(カテーテル検査)が必要です。
●無症状つまり偶然見つかる可能性は低い病気であり、診断された時点で上記いずれかの神経症状を呈していることがほとんどです。
手術をせずに経過観察した場合、症状が進行し歩行不能となる、排尿・排便障害が進行し泌尿器科による手術が必要となることがあります。
また発症から治療介入までの期間が長いと神経症状が進行し、術後も麻痺や排尿・排便障害などの機能改善が乏しいという報告があり早期の治療介入が勧められます。
脊髄動静脈奇形の治療方法
●治療の目的としては動静脈瘻となっているシャント部位を閉塞し静脈への血液の逆流を止めることです。
方法としては①血管内治療による、②外科手術による流入血管遮断術③定位放射線治療があります。
これらの使い分けは、病変のタイプや関与している血管によって一症例毎に最適な治療を検討しています。
●血管内治療は、流入する動脈を塞栓することによりシャント部を血管内から閉塞します。
この方法は足の付け根からカテーテルという管を動脈内に挿入し、その管の中にさらに細いマイクロカテーテルを病変部まで通し、そこから塞栓物質を注入するものです。
塞栓物質はプラチナでできた柔らかい金属製コイルや液体塞栓物質を用います。
皮膚切開や、背骨を削ることがないため低侵襲な方法で、治療直後からその効果が期待できます。
多くの症例は局所下で治療できますが、年齢や全身状態、する血管の位置によっては全身が必要になります。
過去の全国調査では血管内治療による率は約80%でした。
●外科手術は、全身麻酔下に腹臥位(うつ伏せの姿勢)で行います。
背中の真ん中に皮膚切開を行い、背骨に付着している筋肉を剥離、一部脊椎を切除し顕微鏡下で脊髄を覆う硬膜を開けて、病変部位を直接観察してシャント部位を焼却して離断します。
定位放射線治療は、動静脈シャントのある部位に集中的に放射線をあてて、異常な血管の壁を肥厚させ自然に異常血管を詰まらせてしまう方法です。前二者とちがい、体内に異物が入ることはありません。
従来のガンなどに使われる放射線治療と違い、悪い部位だけに高い線量(放射線の強さ)があたるので、周囲組織への影響はほとんどないといわれています。
ただし、脊髄に対する影響についてはまだ確実な情報はありません。
また放射線の効果は徐々に現れるので、治療後動静脈瘻が消失するまでに1~3年必要なため、前二者の治療が不可能または無効であった時に行われる治療手段です。
当院での症例数 (2016年ー2020年)
頚動脈狭窄症の概要
●心臓から脳に血液を送る主要な通り道である頚部の動脈が狭くなることを「頚動脈狭窄症」と言います。
●これが原因で脳血流の低下をきたす、もしくは狭窄部からの脂肪や血栓などの飛散により脳梗塞の原因となる可能性があります。
●頚動脈狭窄症の多くは動脈硬化等が原因です。
●動脈硬化は血管の壁の厚みが増す現象で、コレステロールなどの脂肪からなる粥状(じゅくじょう)硬化巣である「プラーク」が形成されることがあります。
●同じ厚さのプラークでも線維成分が多い安定プラークと、脂肪成分が多い不安定プラークがありますが、不安定プラークは特に脳梗塞を引き起こす危険性が高いため積極的な治療が必要です。
頚動脈狭窄症が疑われた場合どうするか?
●一過性脳虚血発作や脳梗塞を発症して初めて頚動脈狭窄症が発見されることが多いです。
●脳ドックなどの頚動脈超音波で無症候性の狭窄が指摘されることもあります。
●狭窄部の詳細な評価のために、造影CTや頭頚部MRIを撮影することがあります。
頚動脈狭窄症の治療方法
① 内科治療
●まずは禁煙・節酒、高血圧、糖質代謝異常、脂質異常などの動脈硬化の危険因子の管理を行います。
●プラーク安定化(脂肪を飛散させにくくすること)を図るために高脂血症薬を内服してもらうことがあります。
●必要に応じて抗血小板薬(血液をさらさらにしてプラーク表面に血栓が付着しにくくする薬剤)も内服します。
② 外科治療
●狭窄率が高い場合には脳梗塞予防として外科治療を検討した方が良い場合があります。
●脳卒中治療ガイドライン(2021)によると、症候性の病変で狭窄率が70%以上の場合には上記内科治療に加えて外科治療を行うことは妥当とされています。
●無症候性の場合、高度狭窄であることに加えて脳卒中高リスクである病変に対して外科的治療を行うことは妥当とされています。
●外科治療には以下の2種類があります。
●それぞれ一長一短であり、どちらが適しているかは病態や全身的・解剖学的要因により個別に判断されます。
I. 頚動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy: CEA)
●CEAは全身麻酔ののちに頚部皮膚を切開して頚動脈を露出、その後顕微鏡を用いてプラークそのものを摘出(図1-2)し、狭窄を解除(図3)する治療です。
●手術に伴う脳梗塞の発症率は低く、CASが苦手とする柔らかいプラークや全身血管の蛇行が強い場合にも施行可能というメリットがあります。
●全身麻酔の負担があること、首に傷が残るなどのデメリットがあります。
II. 頚動脈ステント留置術(Carotid artery stenting: CAS)
●ステントという金属メッシュを円筒状にした機材(図1)を留置して狭窄を解除する治療です。
●足の付け根から(血管形状によっては腕から)カテーテルという管を挿入し、治療中にプラークが飛散しないように工夫をした上で狭窄部を風船状のカテーテルで拡張した後、ステントを展開します(図2〜5)。
●局所麻酔で施行可能なこと、首に傷が残らないメリットがあります。
●CEAと比較して術後脳梗塞が発症しやすい、造影剤(血管撮影に使用する薬剤)を使用するため腎臓の悪い患者さんには注意が必要である、抗血小板薬をしばらく(半年から1年程度)継続しなくてはいけないデメリットがあります。
当院での症例数 (2017年-2021年)
頚動脈狭窄症の件数は以下の通りです。