鞍結節部髄膜腫の概要
●頭蓋内腫瘍のうち最も頻度の高い腫瘍で、多くは良性腫瘍です。
●中年の方に多く見られる腫瘍ですが、若い方や高齢者でも診断されることのある腫瘍です。
●髄膜腫のうち、鞍結節部の硬膜から発生するものを鞍結節部髄膜腫と呼びます。
●視野視力障害から発見されることが多いです。
●鼻孔を経由した内視鏡手術(低侵襲手術)の適応になることがあります。
●CT検査やMRI検査で見つかることが多く、画像検査のみでおおよそ診断できることが多いです。
鞍結節部髄膜腫が疑われた場合どうするか?
●最近では脳ドックで、無症状のうちに診断されることも多くなっています。
●視野視力障害があれば、基本的には治療適応となります。
●第一選択治療は、基本的には手術による腫瘍の摘出です。
●無症状であれば経過観察でいいです。
鞍結節部髄膜腫の治療方法
①手術
●多くの場合、鼻孔からの内視鏡手術(低侵襲手術)の適応になります。
●腫瘍が大きく、高度の頭蓋内進展をしている場合には、開頭術が必要になることもあります。
●神経生理学的モニタリングを用いて視機能等を確認しながら慎重に摘出を行います。
●手術によって完全に腫瘍が摘出できれば、治癒が得られます。
②放射線治療
●手術後の残存腫瘍や腫瘍再発に対して行われることが多いです。
●近接する視神経に悪影響を及ぼす可能性があるため、基本的には第一選択治療とはなりません。
ガンマナイフやサイバーナイフなどの定位放射線治療が行われることが多いです。
③薬物治療
●現在、有効な薬物療法はありません。
髄膜腫(メニンジオーマ)の概要
●髄膜腫(メニンジオーマ)は最も多い脳腫瘍の一つです。
●脳を包む膜(くも膜細胞)から発生する腫瘍で、その80%は良性腫瘍です。
●20%はやや再発しやすいタイプの髄膜腫、2-3%は悪性のタイプとされています。
●女性にやや多く、高齢になるほど多く見られる腫瘍ですが、若い方や小児でも診断されることのある腫瘍です。
●発生した部位や大きさ、脳のむくみの有無などにより症状はさまざまで、手足の麻痺や言葉がでにくい失語症状、記憶力や計算力が落ちる高次脳機能障害、また頭痛や吐き気、痙攣発作を伴うこともあります。
髄膜腫(メニンジオーマ)が疑われた場合どうするか?
●CT検査やMRI検査などの画像検査でおおよそ診断できることが多いです。
●脳や神経を圧迫し症状がある場合、増大傾向で近い将来症状が起きそうな場合は、手術を考慮します。
●脳ドックなどで小さな髄膜腫が無症状で発見された場合は、定期的に経過観察していき、増大した場合に治療を考慮します。
●高齢の患者さんの場合、摘出が難しい場合などに、放射線治療を行うこともあります。
髄膜腫(メニンジオーマ)の治療方法
①手術
●脳や神経の圧迫や脳のむくみで症状がある場合や、増大傾向で近い将来症状が起きそうな場合は、手術を行います。
●脳の深い場所(頭蓋底部)の髄膜腫は、増大すると手術の難易度や危険性が高まるため、脳の表面にできたものより早い段階での手術を考慮します。
●手術中に電気刺激による神経生理学的モニタリングを用いて、様々な神経機能を確認しながら慎重に摘出を行います。
●脳・神経・血管を傷つけないように摘出することで、脳・神経圧迫症状を改善させることが期待できます。
●血流が多い髄膜腫に対しては、術前に腫瘍栄養血管塞栓術(カテーテル治療)を行うことで、術中出血を減らして安全に摘出を行える場合があります。
●脳・神経・血管を巻き込んだり癒着したりしている場合は、神経機能温存を優先し、意図的に腫瘍を一部残すことがあります。
●腫瘍が残存した場合は定期的に経過観察を行いますが、必要に応じ放射線治療(ガンマナイフ治療や定位放射線治療)を追加することも考慮します。
②放射線治療
●手術でとり切ることが難しい場合は、ガンマナイフ治療または定位放射線治療の追加を考慮します。
●高齢などの理由で全身麻酔手術が難しい場合に、放射線治療を行う場合もあります。
●放射線治療は、それ以上腫瘍を増大させてないことが目的です(腫瘍が消失することはありません)。
●脳の圧迫症状がない、脳のむくみがない、視神経に接していない場合に有効であるとされています。
●治療回数については、症例ごとに放射線治療医が計画し、最適な方法を提案します。
●悪性のタイプの髄膜腫に対し、再発予防のため術後放射線治療を行うことがあります。
③その他の治療方法
●現在保険診療で使用可能な薬物治療はありません。
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)の概要
●聴神経腫瘍は、脳腫瘍の中では比較的頻度の高い良性腫瘍です。
●神経鞘腫とも言われ、脳神経を取り巻く細胞から発生します。
●聴神経とは、聴覚に関する蝸牛神経と、バランス感覚に関する前庭神経が一束となったもので、聴神経腫瘍の多くは後者から発生します(そのため前庭神経鞘腫とも言われます)。
●聴力低下(突然起こることもあります)、耳鳴り、めまいなどが主な症状で、病変が大きくなると顔や口の中のしびれ、歩行障害、まれに顔の表情筋の麻痺を起こします。
●脳脊髄液の流れが悪くなり水頭症を起こすこともあります。
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が疑われた場合どうするか?
●CT検査やMRI検査などの画像検査でおおよそ診断できることが多いです。
●治療方法として手術や放射線治療(ガンマナイフ治療、定位放射線治療)を行いますが、病変の大きさや脳幹圧迫の程度、症状、年齢などを総合的に考慮して治療法を選択します。
●良性腫瘍であるため、すぐに治療せず経過観察する場合もあります。
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)の治療方法
①手術
●3cm以上の比較的大きい腫瘍に対しては手術治療を選択します。
●脳幹圧迫が目立つ場合も手術治療が優先されます。
●顔や口の中のしびれがある場合、手術で神経圧迫を取ることで症状改善が期待できます。
●手術では顔面神経麻痺の危険を伴うため、術中顔面神経モニタリングを用いてその温存に努めます。
●手術前に聴力が残っている場合、術中聴力モニタリングを用いてその温存を試みます(腫瘍が大きい場合やある程度聴力低下している場合などで、温存が難しいこともあります)。
●全摘出が難しい場合は、一部腫瘍を意図的に残し、後に放射線治療を追加します(顔面神経麻痺のリスクをできるだけ避けることを基本とします)。
②放射線治療(ガンマナイフ治療、定位放射線治療)
●3cmより小さく、脳幹圧迫がない症例には放射線治療を考慮します。
●ガンマナイフ治療は1回治療、定位放射線治療は数回治療(当院のサイバーナイフ治療は5回連日治療)を行います。
●放射線により腫瘍がそれ以上大きくならないようにすることが目的です。
●小型腫瘍に対する制御率は高いことが知られています。
●高齢の方であっても無理なく治療を行えます。
●放射線による顔面神経麻痺の発生率は低いとされています。
●放射線による聴力障害は時間経過とともに出てくる可能性があります。
●そのため小型の腫瘍で大きくなってこない場合は、放射線治療をせず様子を見る場合もあります。
●放射線により脳幹や神経の圧迫症状はとれないため、手術する場合と比較して総合判断で治療法を選択します。
③経過観察
●腫瘍が大きくならず安定している場合は、定期的なMRI検査を行い経過観察します。
●画像上の増大、聴力低下などの症状進行具合から、治療介入すべきか判断します。
④薬物療法
●現在保険診療の中で使用可能な薬物治療はありません。
●神経線維腫症2型(NF2)による聴神経腫瘍に対しては、アバスチンという分子標的薬の有効性を確かめる治験が本邦にて行われており、将来的に使用できるようになる可能性があります。
下垂体腺腫の概要
●下垂体にできる腫瘍で最も多く、基本的には良性腫瘍です。
●中年(40-60歳代)に多いですが、若年〜高齢者まで広い年齢層に発生します。
●視野視力障害で発見されることが多いですが、ホルモン過剰/欠落症状で発見されることもあります。
●脳ドックの広がりにより、無症状で発見されることも多くなっています。
●下垂体腺腫は、腺腫がホルモン分泌能を有するかどうかによって亜型(種類)に分類されます。
●ホルモン分泌能を有する(ホルモン過剰症状を呈する)ものは機能性腺腫、ホルモン分泌能を有さない(ホルモン過剰症状を呈さない)ものは非機能性腺腫と呼ばれます。
●下垂体腺腫の亜型によって、治療法が異なります(各項を参照して下さい)。
下垂体腺腫が疑われた場合どうするか?
●造影剤を用いたCT検査やMRI検査で診断できることが多いです。
●採血で下垂体ホルモン値を測定し、下垂体腺腫の亜型を特定します。
●視野視力障害やホルモン過剰など何らかの症状がある場合には治療を考慮します。
●無症状の場合には、経過観察(年1-2回のMRI検査)とします。
下垂体腺腫の治療方法
①手術
●下垂体腺腫の第一選択治療は、原則手術です。
●現在最も行われることの多い手術法は、鼻孔を経由した内視鏡手術です。
●非常に稀ですが、腫瘍が非常に大きい場合、開頭術の適応になることもあります。
●正常下垂体を温存しながら下垂体腺腫を選択的に摘出します。
②薬物治療
●腫瘍の亜型によって、有効な薬物療法が異なります。
●薬物療法が第一選択治療となる下垂体腺腫の亜型もあります。
③放射線治療
●基本的には、手術後の残存腫瘍、および再発性腫瘍で、手術での摘出が困難な部位の腫瘍に対して行われます。
●ガンマナイフ、サイバーナイフなどの定位放射線治療が行われることが多いです。
●周囲の正常組織(視神経や正常下垂体)にも放射線が当たるため、放射線治療後にそれらの機能障害をきたすことがあります。
非機能性下垂体腺腫の概要
●非機能性下垂体腺腫とは、腫瘍細胞から何か臨床症状を来すようなホルモンの過剰分泌を認めない腫瘍のことです。
●腫瘍による周囲の組織圧迫による症状が主となります。
具体的には下垂体上方にある視神経を圧迫して視力視野障害を来すことがあります。
典型的には両耳側半盲(外側の視野が欠ける)を来します。
稀ですが、下垂体の両側には眼球運動を司る神経も走行しており、腫瘍による圧迫が出現すると眼の運動が悪くなり、複視(物が二重に見える)が出現することもあります。
●治療の第一選択は、手術です。
●非機能性下垂体腺腫に対して有効な薬物治療はありません。
●症状がなければ、経過観察の方針とする場合が多いです。
非機能性下垂体腺腫が疑われた場合どうするか?
●造影剤を用いたCT検査やMRI検査で下垂体腫瘍を確認します。
●採血で下垂体ホルモン値を測定し、各下垂体ホルモン分泌低下症の有無を確認します。
●眼科で視力検査・視野検査を行います。
●視野視力障害などの症状がある場合には、治療を考慮します。
●無症状の場合には、経過観察(年1-2回のMRI検査)とします。
非機能性下垂体腺腫の治療方法
①手術
●非機能性下垂体腺腫の第一選択治療は、原則手術です。
●現在最も行われることの多い手術法は、鼻孔を経由した内視鏡手術です。
●非常に稀ですが、周辺の重要な組織を巻き込んでいるような大型腺腫の場合、開頭術を併用することもあります。
●正常下垂体を温存しながら下垂体腺腫を選択的に摘出します。
②放射線治療
●基本的には、手術後の残存腫瘍、および再発性腫瘍で、手術での摘出が困難な部位の腫瘍に対して行われます。
●ガンマナイフ、サイバーナイフなどの定位放射線治療が行われることが多いです。
●周囲の正常組織(視神経や正常下垂体)にも放射線が当たるため、放射線治療後にそれらの機能障害をきたすことがあります。
プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)の概要の概要
●プロラクチンというホルモンを過剰分泌する腫瘍です。
●下垂体腺腫の中でも頻度の高い腫瘍で、下垂体腺腫の約30%を占めます。
●症状は、女性では無月経や乳汁分泌をきたします。
●男性に発生した場合には、プロラクチンが高くてもあまり症状が出ないため発見が遅れ、比較的大きな腫瘍(マクロアデノーマ)として発見される場合が多いです。この時の症状として多いのが視力視野障害です。
●治療はカベルゴリンという薬の内服が第一選択です(週1.2回の内服です)。
プロラクチノーマが疑われた場合どうするか?
●血液検査でプロラクチン値を測定します。
●造影剤を用いたMRI検査で下垂体に腫瘍があるか確認します。
プロラクチノーマの治療方法
① 薬物治療
●プロラクチノーマの第一選択治療は、ドーパミン作動薬による薬物治療です。
●週に1.2回程度内服し、量はそれぞれの症例に応じて調整します。
●特にマクロアデノーマでは、長期間の服用(数年から数十年)を要する場合があります。
●内服を自己中断した場合再発する可能性がありますので、医師の指示に従いしっかりと服用を継続する必要があります。
典型的なプロラクチノーマの治療経過を示します。左のMRI画像では1.5cm程度の腫瘍を認めます。右のMRI画像はカベルゴリンを週2回内服して頂き、3ヶ月後に撮影したものです。腫瘍がかなり縮小していることがわかります。プロラクチン値は正常化し、月経も再開されました。
② 手術治療
●プロラクチノーマは内服薬が非常に有効なので、手術治療は
・内服薬が副作用で使えない時。
・内服薬が効かない時。
・視神経への圧迫が強く、失明する危険性が高い時。 などに限定されます。
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)の概要
●手足やあご、額が大きくなるなど外見上の変化が現れます
●糖尿病、高血圧症、関節痛、睡眠時無呼吸症候群、頭痛を起こす原因にもなります。
●大腸がんや心不全を引き起こし、寿命が10年縮むといわれています。
●先端巨大症、アクロメガリーの原因のほとんどはさまざまなホルモンを分泌する脳下垂体に発生する良性腫瘍です。
●下垂体腫瘍の中でも成長ホルモンを過剰に分泌する成長ホルモン産生下垂体腺腫が原因となります。
●ゆっくり進行するため、加齢変化と思っている方が多く、一緒に住んでいる家族にも気づかれないことがあります。そのため、発症してから診断に至るまで10年前後かかることが多いです。
●久しぶりに会った知人に顔が変わった、指輪が外れなくなった、靴のサイズが大きくなった、汗をよくかくようになった、いびきがひどくなったなどの症状があるようなら、一度昔の写真と今を比べてみるのもよいかもしれません。
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)が疑われた場合どうするか?
●特徴的な外見なので内分泌内科や脳神経外科などの専門医師による確認が必要です(手足の肥大、鼻・唇の肥大、顎の突出など)。
●血液検査で脳下垂体から分泌されるホルモンを測定します。
●CT検査やMRI検査で脳下垂体に腫瘍があるかどうか確認します。
成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー)の治療方法
成長ホルモン産生下垂体腺腫の治療方法としては手術治療、薬物治療、放射線治療があります。
根治性、治療の有効性、治療の副作用、費用などの観点から第一選択は手術治療とされています。
①手術治療
●現在は鼻からの経鼻内視鏡手術が主流になります。
●腫瘍のサイズによっては開頭手術や経鼻と開頭を合わせて手術を行うこともありますがまれです。
●先端巨大症の症状が和らぎ、手術のリスクを減らすため、患者さんの状態によっては手術前に薬物治療(ソマトスタチンアナログ)の投与を行います。
●腫瘍細胞を取り残すと根治しないため、手術では腫瘍細胞の残さない工夫が必要です。
●当院では腫瘍の周りにある擬性被膜という膜まで摘出する、被膜外摘出という方法を行なっています。
●手術のための入院期間は10日から2週間程度となります。
●入院中に血液検査、尿検査、CT検査、MRI検査を行い、治療の効果を判定します。
●退院後は定期的な外来通院・検査(3ヶ月〜1年毎)が必要です。
②薬物治療
●成長ホルモン産生下垂体腺腫には有効な薬物がいくつかあります。
●ソマトスタチンアナログ・・・月に1回程度おしりに注射をすることで成長ホルモン値を下げることができます。
●ドーパミン作動薬・・・週に1〜2回の内服になり、一般的には他の薬と併用して内服することが多いです。
●成長ホルモン受容体拮抗薬・・・毎日ご自身で投与する注射で、成長ホルモン値を下げる効果は強いですが、腫瘍を縮小する効果はありません。
③放射線治療
●手術後に残存した腫瘍に対して行うことがあります。
●薬物治療と併用して行うことが多いです。
TSH 産生下垂体腺腫の概要
●TSH産生下垂体腺腫はTSH(甲状腺刺激ホルモン)を過剰に分泌する下垂体腺腫の一種です。
●動悸、頻脈、体重減少、発汗増多などの甲状腺機能亢進症状が出ますが、TSH産生下垂体腺腫の初期はこれらの症状に気がつかないことが多いです。
●そのため、腫瘍が大きくなって視野障害で気がついたり、頭痛や脳ドックで脳を検査した際に発見されたりすることもよくあります。
●甲状腺機能亢進症を呈するため、バセドウ病という甲状腺疾患と間違えられてそのまま気が付かれなかった例もあります。
●先端巨大症、アクロメガリーと合併することもしばしばあります。
TSH産生下垂体腺腫が疑われた場合どうするか?
●血液検査でホルモンを測定すると、甲状腺ホルモン(T3、T4)が上昇しています。
●しかしTSHは正常値を示すこともあります。
●甲状腺ホルモンが高いのにもかかわらず、TSHが正常値を示していることが異常なのですが、これに気が付かれずに前述のバセドウ病として治療される例もあります。
●血液検査だけでは診断が困難なので頭部のCT検査やMRI検査を行い、下垂体腫瘍の有無を確認します。
TSH産生下垂体腺腫の治療方法
TSH産生下垂体腺腫の治療方法としては手術治療、薬物治療、放射線治療があります。根治性、治療の有効性、治療の副作用、費用などの観点から第一選択は手術治療とされています。
① 手術治療
●現在は鼻からの経鼻内視鏡手術が主流になります。
●腫瘍のサイズによっては開頭手術や経鼻と開頭を合わせて手術を行うこともありますがまれです。
●甲状腺機能亢進症状が和らぎ、手術のリスクを減らすため、患者さんの状態によっては手術前に薬物治療(ソマトスタチンアナログ、抗甲状腺薬、無機ヨウ素)の投与を行います。
●腫瘍細胞を取り残すと根治しないため、手術では腫瘍細胞の残さない工夫が必要です。
●当院では腫瘍の周りにある擬性被膜という膜まで摘出する、被膜外摘出という方法を行なっています。
●手術のための入院期間は10日から2週間程度となります。
●入院中に血液検査、尿検査、CT検査、MRI検査を行い、治療の効果を判定します。
●退院後は定期的な外来通院・検査(3ヶ月〜1年毎)が必要です。
② 薬物治療
●TSH産生下垂体腺腫には有効な薬物がいくつかありますが、薬物での根治は難しいです。
●ソマトスタチンアナログ・・・月に1回程度おしりに注射をすることでTSHを下げることができます。
●抗甲状腺薬・・・ソマトスタチンアナログの効果がない場合に使用することが多いです。
●ドーパミン作動薬・・・週に1〜2回の内服になり、一般的には他の薬と併用して内服することが多いです。
③ 放射線治療
●手術後に残存した腫瘍に対して行うことがあります。
●薬物治療と併用して行うことが多いです。
TSH産生下垂体腺腫は線維質で硬く、周囲(海綿静脈洞)に浸潤している例が多い疾患です。手術で全摘出が困難なこともあります。この場合は術後薬物治療や放射線治療が必要になります。
ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)の概要
●ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を産生する下垂体腺腫です。
●女性に多く見られる腫瘍です(男女比1:4程度)。
●ACTHの過剰分泌により副腎皮質からコルチゾール(ステロイドホルモンの一種)が過剰分泌されることによって、全身の様々な症状を呈します。
●代表的な症状としては、満月様顔貌(顔が丸くなる)、中心性肥満(体幹部の肥満)、皮膚線条(赤い妊娠線のような筋)、皮膚菲薄化、皮膚色素沈着、筋力低下、高血圧、にきび、多毛、浮腫、糖尿病、骨粗鬆症、易感染、精神症状などが挙げられます。
●基本的に遺伝はしませんが、稀に家族性に発症することが報告されています。
ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)が疑われた場合どうするか?
●上記症状によりクッシング病を疑われた場合、採血でACTH、コルチゾールの測定を行います。
●さらに薬剤投与によるコルチゾール抑制試験や ACTH分泌刺激試験などで診断基準を満たし、MRIで下垂体腫瘍を認めた場合、ほぼ確定診断となります。
●クッシング病の下垂体腺腫は小さいことが多く、MRI検査で見つけられないこともよくあります。
●診断が難しい場合は、入院の上、選択的静脈洞血サンプリング(鼠径から脳静脈洞へカテーテルを挿入し、選択的に静脈洞血を採取する検査)を行うこともあります。
ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)の治療方法
①内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術
●現在の第一選択治療は、手術による下垂体腺腫の摘出です。
●現在最も行われることの多い手術法は、鼻孔を経由した内視鏡手術です。
●正常下垂体を温存しながら下垂体腺腫を選択的に摘出します。
●少量でも腫瘍細胞が残存すると病気の治癒が得られなかったり、長期的に再発することがあります。
●そのため、腫瘍の性状によっては周囲の正常下垂体を含めて摘出を行うことがあります。
●手術で完全な腫瘍摘出ができれば、治癒が得られる疾患です。
②薬物治療
●手術までの期間のホルモン過剰症状のコントロール、手術後の再発、何らかの理由で手術を行うことができない場合、などに行う治療です。
●有効な薬剤としては、メトピロン(メチラポン)、カバサール(カベルゴリン)、パーロデル(ブロモクリプチン)、シグニフォー(パシレオチド)などが挙げられます。
●薬物治療でクッシング病の治癒が得られることは、基本的にありません。
③放射線治療
●手術後の残存腫瘍、および再発性腫瘍で、手術で摘出が困難な部位の腫瘍に対して行われます。
●ガンマナイフ、サイバーナイフなどの定位放射線治療が行われることが多いです。
●周囲の正常組織(視神経や正常下垂体)にも放射線が当たるため、放射線治療後にそれらの機能障害をきたすことがあります。
ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)の術後経過
●手術によってクッシング病の治癒が得られると、ステロイドホルモン不足となり、倦怠感(だるさ)、関節痛など様々な症状をきたします。
●よって術後は、自律的なステロイドホルモン分泌機能の回復が得られるまで(通常1-2年程度)、ステロイド薬内服が必要となることが多いです。
●年に1-2回程度は、ホルモン採血を行い、病気の再発がないか評価していきます。
頭蓋咽頭腫(クラニオファリンギオーマ、クラニオ)の概要
●下垂体の茎の部分にできる腫瘍で、頭の中心部に発生する腫瘍です。
●小児期発生のものと成人期発生のものが存在します。
●嚢胞を形成することが多く、増大することで視神経を圧迫し視力視野障害を引き起こします。
●下垂体の茎や視床下部に発生し下垂体機能(ホルモンの分泌)が低下することも多いです。
●小児の症例では低身長で発見されることも多いです。
●成人症例でも下垂体機能低下症状(倦怠感、尿量の増加、月経不順など)で発見されることもあります。
●腫瘍が大きく水頭症を合併した場合には緊急での処置がひつようになります。
●大きくなると視床下部障害(口渇感の障害、認知障害、下垂体機能低下、異常肥満など)や水頭症を合併し生命に関わります。
●腫瘍の中に石灰化を認めるのが特徴で、CTで骨のようなものが写ります。
●良性の腫瘍であり完全な摘出ができれば根治し得ますが、周りに重要な神経が存在するため完全摘出が難しい症例も多いです。
●再発により複数回の手術を要することも多いです。
●初回の手術がもっとも重要ですので、十分な経験のある術者による治療をおすすめします。
頭蓋咽頭腫(クラニオファリンギオーマ、クラニオ)が疑われた場合どうするか?
●症状が緊急を要する場合(水頭症を合併し意識状態がわるい、視力が急激に低下するなど)には緊急手術を行うことがあります。
●この場合、最小限の検査を行った上で当日に治療を開始する可能性があります。
●緊急を要さない場合には以下のような検査を行います。
➢CT検査
➢MRI検査
➢下垂体機能検査
➢視力、視野検査
●前述のように初回の治療が今後を大きく左右しますので、上記の検査を行った上で治療の計画を十分に検討します。
●ホルモンの状態が悪い場合には、内分泌治療を先行で行います。
頭蓋咽頭腫(クラニオファリンギオーマ、クラニオ)の治療方法
●治療の基本は手術治療で、症例に応じて摘出方法を選択します。
●主な摘出方法には開頭術と経鼻手術の2つがあります。
●症例によっては計画的に複数回の手術を必要とすることもあります。
●複数回の手術というと侵襲性が高いように思えるかもしれませんが、脳に対する侵襲性を考えてあえて治療を分けることも十分に考慮されます(組み合わせが重要です)。
①内視鏡下経鼻的頭蓋底腫瘍摘出術
●鼻の穴を経由して内視鏡で観察しながら摘出を行います。
●腫瘍の主な発生源である下垂体茎に直接アプローチ可能な治療法です。
●視神経の裏側を観察可能であり、視力障害が強い症例に対して有利です。
●下垂体、下垂体茎、視神経に加えてこれらを栄養するほそい血管も観察できるため治療に有利です。
●頭蓋中心で前後方向に拡大した腫瘍には有利ですが、過度に上方に拡大した症例や左右外側方向へ拡大した病変への適応は難しいです。
●開頭術に比較して髄液鼻漏という合併症の可能性があります。
②開頭腫瘍摘出術
●開頭を行って摘出する方法です。
●侵襲は大きいですが、大きな腫瘍でも対応可能な点、こまかな操作が行える点など有利なことも多いです。
●症例に応じて開頭部位が変わります。
③嚢胞開窓術
●水頭症を合併した腫瘍や嚢胞が大きな症例に対して選択されます。
●髪の毛の生え際あたりに5cm程度の皮膚切開を行い、頭蓋骨に1cmの穴を開けます。
●脳室もしくは嚢胞にむけて経6mmの筒を挿入し、内視鏡で観察しながら嚢胞に穴を開けてつぶします。
●全身麻酔が必要ですが、手術時間は概ね1時間程度です。
●水頭症の解除がされ、急死を防ぐことが可能になります。
●根治治療ではありませんので、①経鼻手術や②開頭手術が追加で必要になる可能性が高いです。
●年齢、状態によっては嚢胞をつぶし放射線治療を行うこともあります。
④放射線治療
●摘出が不可能な症例に対して放射線治療が選択されます。
●腫瘍制御に有効ではありますが、再増大の可能性、放射線による晩期障害の可能性があります。
●現在のところ切らずに治療できる夢の治療ではありません。
●可能な限り摘出した上で最小限の範囲での放射線治療を行うことで放射線障害の発生を抑える必要があります。
頭蓋咽頭腫(クラニオファリンギオーマ、クラニオ)の術後経過
●頭蓋咽頭腫の術後に内分泌機能が低下する可能性があります。
●頭蓋咽頭腫は手術も難しいですが、術後の内分泌、水分管理なども難しいです。
●症例によっては術後管理がうまく行かないことで障害を生じる可能性があります。
●術後管理も含めて十分な経験が必要な疾患であると言えます。
●術後の管理や内分泌の調整のため2週間は入院期間が必要です。
頭蓋咽頭腫(クラニオファリンギオーマ、クラニオ)の初期治療後の経過
●内分泌障害が起こった場合には内服治療、点鼻治療、自己注射による治療が必要になることがあります。
●内分泌障害の程度に応じて必要なホルモンを補充します。
●初回治療退院後、概ね1〜2週間の自宅療養を行っていただきます。
●内分泌治療の状態にもよりますが、外来への通院は1〜2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後に受診をいただきます。
●その後は残存病変の有無、年齢などによって受診間隔が変わります。
●小児の症例では可能な限り夏休み、冬休み、春休みなどを利用し学業に影響がないように工夫をします。
●長く経過が良い方でも(例えば10年)再発の可能性がありますので、年に一回はMRI検査を行います。
神経内視鏡下垂体グループのホームページもご参照ください。
海綿状血管腫の概要
●脳内の血管奇形の一つです。
●出血を繰り返すことで増大し、さまざまな神経症状を呈します。
●無症候性のものも多く、最近では脳ドックで発見される小さなものも多いです。
●無症候性海綿状血管腫は基本的に経過観察が選択され年に一回程度のMRI検査を行います。
●症状が出たものでも脳浮腫の治療などを行い、経過をみることで症状が改善することも多いです。
●脳幹部にできたものは出血率が高いとされています。
●稀ではありますが家族性海綿状血管腫の症例もあります。
●脳内に多発する海綿状血管腫を認めた場合、ご家族にも受診をすすめることがあります。
海綿状血管腫が見つかったときに行うこと(無症状のとき)
●脳ドックなどで見つかる場合の多くは無症候性です。
●この場合には経過観察をおこないますが、まずはMRI検査を行い病気の性状と他に病気がないかどうかを調べます。
●特に治療が必要ないと判断された場合は半年〜年に一回程度のMRI検査を行っていきます。
海綿状血管腫が見つかったときに行うこと(症状があるとき)
●海綿状血管腫にともなう症状は部位によって異なります。
●頭痛などで見つかるものから麻痺、てんかんで発見されるものまで様々です。
●症状が緊急を要する場合には緊急で手術を行うことがあります。
●この場合、最小限の検査を行った上で当日に治療を開始する可能性があります。
●緊急を要さない場合には以下のような検査を行います。
➢CT検査(造影検査)
➢MRI検査(造影検査)
➢症状に応じて神経検査(部位によります)
●脳内に存在する神経の走行も重要ですので、上記の検査結果を組み合わせて適切な治療法を考えます。
●症状が軽い場合、出血の回数が少ない場合などは経過観察をおすすめすることもあります。
●この場合、脳の腫れを抑えるお薬を処方し症状の軽減を図ります。
●てんかんで見つかった場合には脳波検査などをおこない、摘出の必要があるかどうか検討を十分に行います。
●経過を見ていくと縮小し症状が消失することもありますので手術に飛びつかないことも大事です。
海綿状血管腫の治療方法(大脳、小脳)
●症状がない場合、軽い場合には経過観察をします。
●症状が強い場合や悪化傾向にある場合、経過をみることで生命に関わる可能性が高い場合などは手術による摘出術を考慮します。
●当院における海綿状血管腫治療は内視鏡を用いた摘出術を基本としています。
●部位にもよりますが、1円玉程度の小さな開頭を行い、そこから6mm経の筒を病変に向けて挿入し、その内部で摘出を行います。
●内視鏡で血管腫の内部を観察しながら摘出操作を行います。
海綿状血管腫の治療方法(脳幹)
●脳の中でもっとも重要な組織である脳幹にも海綿状血管腫が発生することがあります。
●この部位の治療は非常に難易度が高いため、治療の適応は限られます。
●多くの症例では経過観察をおすすめしています。
●症状が増悪傾向にある場合には手術治療を検討します。
●脳幹は神経が密集していますので、部位に応じて治療法を大きく変えます。
●経鼻的な手術法や耳の周辺の切開、後頭部の切開、前頭部の切開などさまざまです。
●他の部位の手術と同様に当院では内視鏡を用いた摘出を主としています。
●左図のように脳幹の内部を十分に観察しながら摘出操作を行います。
●水中で手術を行うことで脳組織への損傷を抑えた治療を目指しています。
神経内視鏡下垂体グループのホームページもご参照ください。