血管奇形(その他)の概要
●血管の異常は、血管腫と血管奇形に大きく分けられます。
●血管腫は、血管性の腫瘍であり、乳幼児・小児期に認めるものが多く、基本的には成人にはありません。乳児血管腫(苺状血管腫)、先天性血管腫、カポジ肉腫様血管内皮腫などです。
●ヒトの体が出来上がるときに脈管(血管やリンパ管)が形成されますが、その過程の調整異常に起因する血管の異常です。
●通常は孤発性ですが、遺伝性のものもあります。毛細血管奇形・リンパ管奇形・静脈奇形・動静脈奇形やその混合があります。
●単純病変だけではなく、多発するものもあります。
●多発する場合は、いくつかの症候群に分けることができ、代表的なものを列挙すると、脳脊髄病変を合併しやすいSturge-Weber症候群、Wyburn-Mason症候群(Bonnet-Dechaume-Blanc症候群)、Cobb症候群、足の肥大を伴うKippel-Trenaunay症候群, Parkes Weber症候群などがあります。
●徐々に遺伝子変異が原因であることが判明してきている疾患群もあります。代表的な疾患としてはOsler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症:HHT)、Parkes-Weber症候群、Cowden病などがあります。今後、その遺伝子変異に対する遺伝子治療や分子標的創薬の可能性があると考えられています。
血管奇形が疑われた場合どうするか?
●症状があるため精査し見つかることもありますし、脳ドックのMRIなどで偶然見つかることもあります。
●CTやMRIなどの画像検査と年齢・症状でおおよそ診断できることが多いです。
●更に細かく血管の情報の精査を行いたい場合は、DSA(血管撮影)検査を行うこともあります。
●無症候性のこともありますので慎重に治療適応があるかどうか決定します。薬剤による治療はありませんので、必要であれば外科的手術を行うことを検討します。
●他の臓器の奇形や血管奇形などを伴うこともあるため、他の診療科ともよく相談すること重要です。
血管奇形の治療方法
●それぞれの疾患や病期によって治療方法は異なります。
●薬物治療・レーザー治療・外科的切除・血管内治療があります。
●また治療方法だけではなく、適切な治療開始時期や、治療後の再発評価など長期に渡って経過観察することが重要です。
●形成外科・耳鼻科・放射線科など関連各科と連携しながら治療に当たります。
① 血管内手術(カテーテル治療)
●皮膚を切らずにできる治療法です。
●血管撮影室でレントゲンを見ながら,カテーテルを用いて血管の中から治療します。
●頭皮・顔面の血管奇形は体表に近いことから、直接血管に針を刺すことで治療することもできます。
●塞栓物質はプラチナ製の柔らかい金属製コイルやNBCAに代表される液体の塞栓物質、エンボスフィアに代表される粒状塞栓物質があります。
●他に使用しうるポリドカノール・無水アルコールなどです。
●血管奇形のには経静脈的なと、経動脈的ながあります。
② レーザー治療・外科的切除
●部位に応じて、形成外科や耳鼻咽喉科と相談することになります。
当院での症例数 (2017年-2020年)
当科で担当した血管奇形(その他)の手術件数は以下の通りです。
硬膜動静脈瘻の概要
●硬膜動静脈瘻は比較的稀な脳や脊髄などに生じる血管障害の一つであり、動脈血が静脈に直接流れ込む(シャント性)疾患です。
●比較的高齢の方に多く見られますが、若い方でも診断されることのあります。
●静脈の血圧上昇や静脈血栓症、ホルモンの影響、外傷・手術の影響など多くの後天的な原因が報告されています。
●静脈内部の圧が高くなり、逆流を起こして出血やうっ血を起こすことで症状が出ます。
●脳出血やくも膜下出血を起こすこともあります。後遺症に繋がることや致命的になることも有り得ます。
●目の奥の海綿静脈洞部や耳の横の横静脈洞などに出来やすいです。
●意識障害、手足の麻痺、頭痛や吐き気、痙攣、視力低下・目の突出・ものが二重にみえる、耳鳴りなどの症状がでることがあります。
硬膜動静脈瘻が疑われた場合どうするか?
●症状が出現したために精査し見つかることもありますし、脳ドックのMRIなどで偶然見つかることもあります。
●CTやMRIなどの画像検査のみでおおよそ診断できることが多いです。
●分かりづらい場合や治療を計画するときにはDSA(血管撮影)検査を行うこともあります。
●これらの画像検査で静脈への逆流の程度や患者さんの症状を考慮し、治療適応があるかどうか決定します。
●薬剤による治療はありませんので、必要であれば外科的手術を行うことを検討します。
硬膜動静脈瘻の治療方法
1)血管内治療による,2),3)開頭による血管遮断術を単独もしくは組み合わせることで治療することになります。
一部の部位では開頭術が第一選択となりますが,多くの部位では血管内治療によるが第一選択となります。
① 血管内手術(カテーテル治療)
●皮膚を切らずにできる治療法です。
●血管撮影室でレントゲンを見ながら,カテーテルを用いて血管の中から治療します。
●一般的には経静脈的により異常な血管が流れ込んでいるをさせてしまうことが根治術となりますが,そのにたどり着けない時や,正常な脳の血流がそのを使って還流している場合にはをさせることができないため,流入している動脈からさせます。
●いずれの方法も脳を直接触ることのない低な方法で,高齢者にも適応できることが多く、治療直後からその効果が期待できます。
●塞栓物質はプラチナ製の柔らかい金属製コイルやOnyxに代表される液体の塞栓物質、エンボスフィアに代表される粒状塞栓物質があります。
●当院では、多くの症例は局所下で治療しております。
●年齢や全身状態、する血管の位置によっては全身が必要になります。
●日本国内の統計では血管内治療による率は83%と報告されています。
② 開頭手術
●開頭術はテント部・前頭蓋底部などに行われることが多いです。
●直後から治療効果が期待できます。
●場所によっては手術の難易度が高くなります。
③ 放射線治療
●ガンマナイフ・サイバーナイフなどのは,に集中的に放射線をあてて,の血管壁を肥厚させ自然に異常血管を詰まらせてしまう方法です。
●まわりの正常な脳への影響はほとんどありませんが、放射線の効果は徐々に現れるので,が消失するまでには年単位の時間がかかることが多いです。
●そのため、第一選択ではなく、他の方法が困難な場合に選択されることが多いです。
当院が参加した、もしくは参加している硬膜動静脈瘻の臨床試験
●国内主要施設で硬膜動静脈瘻に対する液体塞栓物質の治験が行われ、参加しています。
(Onyx; UMIN-000013143, 2013-2015)
現在はPH01-2の医師主導治験にも参加しています。
●また術後の登録研究である「硬膜動静脈瘻に対するOnyx液体塞栓システムを用いた経動脈塞栓術に関する多施設共同登録研究(Onyx dAVF TAE Registry)」(UMIN-000034344)にも参加しています。
当院での症例数 (2017年-2021年)
脊髄病変などは除き、頭蓋内硬膜動静脈瘻の件数は以下の通りです。
脊髄動静脈奇形の概要
●髄動静脈奇形とは脊椎(背骨)の中で毛細血管を介さずに動脈と静脈が直接交通(シャントと言います)する病気の総称です。
●以前から様々な分類や呼称が提唱されてきましたが、画像診断技術の進歩に伴い詳細な血管解剖やシャントの発生部位を把握することが可能となり、現在はおもに下記の4種類(表1)に分類されます。
一番多いのは脊髄硬膜動静脈瘻といい硬膜という脊髄を覆う膜の層内で動脈と静脈がシャントするタイプです。
それ以外に、硬膜の外側や脊髄表面でシャントするタイプ、脊髄内部にシャントを含む異常血管の塊(ナイダスと言います)を伴うタイプ(脊髄髄内動静脈奇形)に区分されます。
いずれも圧の高い動脈血が脊髄の静脈に逆流することで様々な問題を引き起こします。
●多くの場合は原因不明です。
脊髄髄内動静脈奇形は先天的な問題(出生時に存在)とも考えられていますが、明確には分かっていません。
脊髄硬膜動静脈瘻は後天的な要因として外傷や手術などの関与も指摘されていますが定かではありません。
脊髄動静脈奇形が疑われる症状
●症状が出現する原因として下記理由があります。
①シャント周囲の正常な血液の流れが悪くなり脊髄がむくんで腫れる(血液循環障害)。
②壁の薄い静脈が風船のように膨らみ(静脈瘤)、脊髄を圧迫する。
③圧のかかった静脈や静脈瘤が破れて出血する。
①、②:両下肢の筋力低下、痺れ、排尿・排便障害などの神経症状をきたします。
通常、これらの症状は月単位で進行してきます。
③:タイプにより出血様式が異なり、脊髄硬膜・脊髄辺縁部動静脈瘻でくも膜下出血を、脊髄髄内動静脈奇形で脊髄髄内出血を起こすことがあります。
いずれのタイプも出血時に突然症状が出現し、特に脊髄髄腔内出血の場合は永続的な後遺症が残ることがあります。
くも膜下出血:突然の頚部痛、背部痛
脊髄髄内出血:突然の手足の運動麻痺、感覚障害、排尿・排便障害
脊髄動静脈奇形が疑われた場合どうするか?
●造影CT検査や単純・造影MRI検査でおおよそ診断がつきますが、正確なシャント位置やタイプの同定、治療方針を検討する上で脊髄血管撮影検査(カテーテル検査)が必要です。
●無症状つまり偶然見つかる可能性は低い病気であり、診断された時点で上記いずれかの神経症状を呈していることがほとんどです。
手術をせずに経過観察した場合、症状が進行し歩行不能となる、排尿・排便障害が進行し泌尿器科による手術が必要となることがあります。
また発症から治療介入までの期間が長いと神経症状が進行し、術後も麻痺や排尿・排便障害などの機能改善が乏しいという報告があり早期の治療介入が勧められます。
脊髄動静脈奇形の治療方法
●治療の目的としては動静脈瘻となっているシャント部位を閉塞し静脈への血液の逆流を止めることです。
方法としては①血管内治療による、②外科手術による流入血管遮断術③定位放射線治療があります。
これらの使い分けは、病変のタイプや関与している血管によって一症例毎に最適な治療を検討しています。
①血管内治療は、流入する動脈を塞栓することによりシャント部を血管内から閉塞します。
この方法は足の付け根からカテーテルという管を動脈内に挿入し、その管の中にさらに細いマイクロカテーテルを病変部まで通し、そこから塞栓物質を注入するものです。
塞栓物質はプラチナでできた柔らかい金属製コイルや液体塞栓物質を用います。
皮膚切開や、背骨を削ることがないため低侵襲な方法で、治療直後からその効果が期待できます。
多くの症例は局所下で治療できますが、年齢や全身状態、する血管の位置によっては全身が必要になります。
過去の全国調査では血管内治療による率は約80%でした。
②外科手術は、全身麻酔下に腹臥位(うつ伏せの姿勢)で行います。
背中の真ん中に皮膚切開を行い、背骨に付着している筋肉を剥離、一部脊椎を切除し顕微鏡下で脊髄を覆う硬膜を開けて、病変部位を直接観察してシャント部位を焼却して離断します。
③定位放射線治療は、動静脈シャントのある部位に集中的に放射線をあてて、異常な血管の壁を肥厚させ自然に異常血管を詰まらせてしまう方法です。前二者とちがい、体内に異物が入ることはありません。
従来のガンなどに使われる放射線治療と違い、悪い部位だけに高い線量(放射線の強さ)があたるので、周囲組織への影響はほとんどないといわれています。
ただし、脊髄に対する影響についてはまだ確実な情報はありません。
また放射線の効果は徐々に現れるので、治療後動静脈瘻が消失するまでに1~3年必要なため、前二者の治療が不可能または無効であった時に行われる治療手段です。
当院での症例数 (2016年ー2020年)
脳動静脈奇形(AVM)の概要
●脳動静脈奇形は、脳の中にできた「異常な血管の塊」です。
●脳に血液を送る動脈と、脳から血液を心臓に戻す静脈が「異常な血管の塊」で直接つながってしまっています。
●出生前の胎児期に発生する先天的な病気で、成人以降に新しく発生する事はほとんどないと言われていますが、はっきりした時期は分かっていません。
●10万人あたり年間1~2人程度の方が脳動静脈奇形と診断され、10-30歳台の若い方で発見される割合が高くなっています。
手術前
脳動静脈奇形の症状とは?
●脳動静脈奇形があるだけでは、殆どの場合症状はありません。
●しかし、「異常な血管の塊」が破裂した場合や、周囲の脳が影響を受けると症状がでます。
●具体的には、「異常な血管の塊」が破裂すると脳出血やくも膜下出血が起こり(約50%)、周囲の脳が影響を受けると手足が引きつったりがくがくしたりします(約25%)。
●その他にも、頭痛や耳鳴りで脳動静脈奇形が見つかる場合もあります。
●最も重篤な症状を引き起こす「異常な血管の塊」が破裂して出血を起こす時期は30歳台で最も多いと言われています。
脳動静脈奇形の治療は必要か?
①破裂脳動静脈奇形の場合
●脳出血やくも膜下出血を発症し、原因が脳動静脈奇形の破裂であると診断をされた場合は、再度出血する危険性が高い(約20%)ため治療を受けられる事をお勧めします。
●特に出血後最初の1年に再出血を起こす危険性が高い(約15%)ため、早めの対応が必要です。
●ただし破裂した脳動静脈奇形でも、サイズが非常に大きく、また場所が脳深部で大切な神経機能を担っており、手術に伴う合併症の危険性が高いと判断した場合には、血圧管理を中心とした内科治療を行う事もあります。
②未破裂脳動静脈奇形の場合
●未破裂で発見された脳動静脈奇形が破裂する確率は年間2%程度であり、あまり高くありません。
●治療をせずに経過を観ても症状を起こす可能性が低いため、治療するかしないかは未だ議論の的であり、当科ではそれぞれの脳動静脈奇形に合わせて治療適応を決定しています。
●具体的には、大きさ・血管の走行・血管の瘤の有無・出血の痕の有無・周囲の脳機能の大切さなど様々な点を考慮する必要があります。
●当科では、手術を担当する医師、血管内治療を担当する医師、全員チームで集まって治療方針を決定し、担当医が納得できるまでお話をさせていただきます。
脳動静脈奇形の治療方法は?
●脳動静脈奇形の治療には、①開頭で脳動静脈奇形を摘出する手術②カテーテルを用いて、脳動静脈奇形の内部を固めて血流をなくす血管内治療③放射線により異常血管の塊を閉塞させる定位放射線治療の3つが挙げられます。
●当科ではそれぞれの脳動静脈奇形に合わせて、手術・血管内治療・放射線治療を組み合わせ、最適と考えられる治療を行います。
①開頭手術
●「異常な血管の塊」を摘出しますので、術後は脳動静脈奇形が脳の中から無くなります。
●一方で、非常に大きなサイズや脳の深部にある脳動静脈奇形の手術治療は難しく、開頭手術の適応を慎重に検討する必要があります。
②血管内治療
●「異常な血管の塊」を液体状の塞栓物質で埋めつぶして固めてしまう方法です。
●当科では、基本的に血管内治療の後に開頭手術を組み合わせ、脳動静脈奇形を安全に摘出します。
③定位放射線治療
●最も侵襲の小さい治療で、ガンマナイフという技術を用います。
●外科的手術による合併症の危険が高く、3cm以下の脳動静脈奇形では定位放射線治療が勧められます。
●放射線治療は、完全閉塞までに数年程度の時間が必要な場合がありますが、小型の脳動静脈奇形では放射線のみでも安全な治療を行うことが可能です。
●当科では名古屋大学関連病院と連携して治療を行っています。