人が感じる痛みには大きく分けると侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛があります(図1)。侵害受容性疼痛は、打撲、骨折、切創、炎症などにより発生する痛みであり、一般的な鎮痛薬が有効です。一方、神経障害性疼痛は、神経が何らかの原因でダメージを受けることによって発生する疼痛です。ダメージを受けた神経やその周囲の細胞の活動が変化することで痛みが発生するため一般的な鎮痛薬は効きません。難治性疼痛は一般的な薬物が効きづらい疼痛の総称であり、患者さんを苦しませているのは多くの場合、神経障害性疼痛です。
名古屋大学脳神経外科では、難治性疼痛の治療を専門とした外来を開設しています(毎週金曜日、担当医:種井隆文)。
神経障害性疼痛は、ダメージを受けた神経の部位によって中枢性もしくは末梢性に分けられます。中枢性疼痛の代表例は、脳卒中後に手や足にしびれや痛みが出現する中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)です。脊髄損傷や脊髄疾患の術後などに痛みが出現する脊髄損傷後疼痛なども挙げられます。末梢性疼痛は、脊椎手術後症候群(FBSS)、糖尿病性神経障害に伴う痛み、複合性局所疼痛症候群(CRPS)などが挙げられます。神経障害性疼痛の特徴として、灼熱感、しびれ感、感覚鈍麻、アロディニアなどをともないます。
近年、各国で神経障害性疼痛治療に関する治療指針が提案されています。名古屋大学脳神経外科教室は、各国薬物ガイドラインを参考にして臨床現場で容易に使える治療アルゴリズムを作成し、2012年から運用を開始しています。ガイドラインの改訂や追補があるたびに更新し、2022年に第5版となっています。(図2)。我々は、中枢性疼痛に対してこのアルゴリズムを用いた薬物治療が、約7割の症例で除痛効果を認めることを報告しています。
図2
このような薬物を行っても十分な除痛効果が得られない場合、外科的治療が検討されます。現在、本邦において脊髄刺激療法が保険診療として認可されています(図3)。
脊髄刺激療法は、刺激電極を挿入し脊髄後索周囲を電気刺激して痛みを軽減させる治療法です。しかし、すべての方に除痛効果を認めるわけではないため、電気刺激で除痛効果があるのかを判定する必要があります。名古屋大学脳神経外科では、第1回目の治療として刺激電極を局所麻酔で皮膚を切開することなく挿入します。そして入院にて試験刺激を行ない、痛みが軽減するかどうかを評価します(約10日間)。試験刺激の終了後は、効果の有無にかかわらず電極を抜去し、一旦退院となります(図4)。
図4
試験刺激が終了した方は、退院後に電極を留置するかどうかを検討していただきます。そして電極の留置を希望された方は、外来で主治医から説明を聞いた上で、再度入院していただきます。第2回目の治療は、全身麻酔で刺激電極と刺激装置と体内に埋め込みます(図5)。
図5
脊髄刺激療法はさまざまな末梢性疼痛に有効ですが、特に脊椎手術後症候群(FBSS)、複合性局所疼痛症候群(CRPS)などの末梢性疼痛に対して高い有効性が示されています。近年、デバイスの進歩により治療効果は向上しています。今までは有効性が乏しいとされていた中枢性疼痛に対しても有効性を認めるという報告が増えています(図6)。
図6
名古屋大学脳神経外科の難治性疼痛外来では、以上のような神経障害性疼痛に苦しんでいる方に対して、薬物および外科的治療を行っています。日本には神経障害性疼痛によって日常生活に支障をきたしている方がたくさんいらっしゃいます。治療が奏功した方の中には、『治療してよかった。もっと早くこの治療をしっていればよかった』、『仕事ができるようになった』などのお言葉をいただいています。難治性疼痛で苦しんでいらっしゃる方の症状を少しでも軽減させられるように治療を行っていきます。名古屋大学脳神経外科の難治性疼痛外来を受診したい方、お住いの地域で治療を受けてみたい方は、下の図7をご参照してください。
図7
脊髄刺激療法は保険診療で治療を受けられます。高額な医療機器を使用しますが、高額療養費制度を用いることで自己負担額は少なくなります(図8)。詳しくは受診した病院でお問い合わせください。
図8
名古屋大学脳神経外科では難治性疼痛に対する脊髄刺激療法に関して、以下2つの前向き臨床研究を行っています。
1. 難治性神経障害性疼痛に対する脊髄刺激療法における従来刺激法と新規刺激法の有効性に関する研究
2. 脊髄障害性疼痛に対するパドル型電極を用いたDTM刺激の有効性に関する研究
この2つの研究は名古屋大学臨床研究審査委員会の承認を受け、実施医療機関の管理者の許可を受けて実施している研究です。また、厚生労働大臣に実施計画を提出しています。詳しいことをお知りになりたい方は、下記の説明書をご覧ください。
説明書1
説明書2