ご挨拶

若林 俊彦
  • 名古屋大学大学院医学系研究科
    脳神経外科学教授
    若林 俊彦Toshihiko WAKABAYASHI

活気溢れる教室に、君たちのエネルギーを注ぎ込み、
思いっきり新たな世界へ向かって羽ばたく未来を創造しようではないか。
来れ若者!

若林教授

若林 俊彦教授からのメッセージ

例えば、脳神経外科の手術の中で、脳腫瘍の手術は、基本的には可能な限り腫瘍を完全に切除するのだが、機能予後を考慮すると全摘出が容易な症例は必ずしも多くはない。先進的画像診断技術と術中支援システムの統合により、腫瘍進展範囲と優位機能領域との関係を術前に明らかにすることもある程度可能だが、浸潤性脳腫瘍の場合、腫瘍境界が術前には不明確であることも少なくない。このようなときに、術前画像情報を用いてニューロナビゲーション手術へどのように応用しているか、更には術中MRIによってブレインシフトを補正する事で機能欠落を生じない最大限の腫瘍切除と機能温存を可能とする最新脳神経外科手術を駆使しなくてはならない。また、脳内の的確な位置に製剤を投与する為の脳神経外科ロボット”Neuro Mate(ニューロメイト)“の登場により、薬物の脳内拡散を最大限にするConvection enhanced delivery(CED)法の応用で、次世代治療法としてLipofection法によるsiRNAを用いた核酸医薬の開発を目指している。これらナノパーティクルを脳内に的確に投与するナノサージェリー(nanosurgery)の世界はこれから、脳神経外科領域を大きく変革する契機になると期待されている・・・・・。

さて、脳神経外科の手術は、1960年代の手術顕微鏡の導入、80年代の頭部CT、90年代のMRIの普及に伴う画像診断技術の著しい向上により目覚ましい進歩を遂げた。しかしながら神経膠腫を代表とする浸潤性脳実質内腫瘍は、高倍率の手術顕微鏡をもってしても腫瘍の境界を同定することが困難で、MRI等に描出された腫瘍を正確に摘出することは必ずしも容易でない。これらの腫瘍に対する手術では、90年代に導入が始まった、ニューロナビゲーションを基本技術とする、画像誘導手術の発展が欠かせない。更には、脳診断画像の進歩により術前診断、手術戦略立案、術中支援に役立つ。MRI像については標準的であるT1強調像、T2強調像、FLAIR画像の他に拡散強調画像、ADC (Apparent Diffusion Coefficient)map、DTI(Diffusion Tensor Imaging)、T2*、MR Spectroscopy、functional MRI、MR Angiographyなどがすでに臨床応用され、術前の組織診断及び機能局在診断に威力を発揮している。また、FDG-PET、Methionine-PETに代表されるPET検査、SPECT検査等核医学検査、脳磁図が利用可能であり、病変部位の同定に役立っている。更に、X線CT検査も最近ではmultislice herical CTの普及がある。これらの多様な画像とコンピューター工学の進歩により、3D virtual imageなどの画像解析技術が手術技術の向上に多大な貢献をしている。

術中診断モダリティーとして、1995年にPeter Blackが米国ボストンのBrigham and Women’s Hospital, Harvard Medical Schoolにおいて世界で初めて術中MRIを導入した。その後、様々な術中MRI手術室が導入されているが、2006年に、名古屋大学の吉田純教授らは”Brain THEATER”と名付けられた手術支援システムを構築した。Brain THEATERはHITACHI製のopen MRIユニット(0.4 Tesla APERTO)を核とし、ナビゲーションシステム・手術顕微鏡・神経生理学的モニタリングシステム等周辺機器が一体となって機能し、安全でかつ高度な近未来型手術室を導入した。この術中MRI手術室に隣接してコントロールルームが設置され、MRI撮像、手術計画の立案、手術映像配信などの機能を持つ(図1)。

図1:脳神経外科手術室 ”Brain Theater”での実際の手術風景
図1:脳神経外科手術室 ”Brain Theater”での実際の手術風景

手術時には、術直前に撮影したMRI画像、PET画像等の融合画像をニューロナビゲーションへ登録し、これを用いて手術計画の立案を実施。その後、ナビゲーションの誘導に従って、開頭、顕微鏡下手術を順次遂行し、あらかじめ設定した標的に向かって手術を進める。(図2)

図2:ナビゲーション画面上に描出されている術前標的(左)と摘出後の術中画像(右)。
図2:ナビゲーション画面上に描出されている術前標的(左)と摘出後の術中画像(右)。

しかし、それでもなお、現存の治療では治癒に至る事のない難治性疾患が山積されているのが脳神経外科領域の現状である。当大学医学部附属病院には、平成16年に設立された「遺伝子・再生医療センター」のインフラ整備に伴い、平成17年にはバイオマテリアル調整部門が設立され、平成18年にはシステム管理体制として国際標準化機構ISO9001:2000およびISO13485:2003認証を取得した。そこには、遺伝子治療ユニット、細胞治療ユニット、再生ユニットおよび産学連携ユニットがあり、GMPに準拠したリポソームの院内製造も可能である。平成22年度には、当センターは臨床研究支援センターと統合した形の、「先端医療・臨床研究支援センター」となり、先端医療でのデータマネジメントシステムも、CRC(Clinical Research Coordinator)が管理する体制も整備された。この統合により、臨床データの管理及び解析能力が格段に向上し、今後の先端利用開発における臨床情報解析が極めて質の高いレベルで実施されるようになった。(図3)

図3:名古屋大学医学部附属病院先端医療・臨床研究支援センターバイオマテリアル調整部門
図3:名古屋大学医学部附属病院先端医療・臨床研究支援センターバイオマテリアル調整部門

医工連携による技術革新に裏打ちされ、様々な脳神経疾患に対する分子標的の発見に伴う、分子イメージングから、その標的を目掛けての分子標的治療の開発は、脳神経外科領域の難治性疾患に対して新たな挑戦が始まっている。

さて、当名古屋大学医学部脳神経外科教室の歴史は古く、日本脳神経外科学会の開拓者・齋藤眞教授より始まる。その後、景山直樹教授は脳腫瘍学・脳内分泌学を確立し、杉田虔一郎教授は脳神経外科の顕微鏡手術の確立・スギタクリップ等の脳神経外科手術機器開発に中心的役割を果たした。吉田 純教授は生命科学・医用工学の進歩を取り入れ、脳腫瘍の遺伝子治療、細胞・再生医療や、脳血管内治療の開拓に尽力するとともに、コンピューターを駆使した新たな画像診断技術を脳神経外科手術室に導入した。この手術室はBrainTHEATERと呼ばれ、術中MRIやナビゲーションを駆使した高度な画像誘導手術が可能となりました。平成20年6月からは若林俊彦教授のもと、近未来型脳神経外科手術装置の開発、コンピュータシュミレーションモデルを用いた脳外科疾患診断と脳外科手術支援、遺伝子治療、核酸医療、再生医療、細胞療法等の先端医療開発に力を注ぎ、治療成績の向上に取り組んでいる。平成23年度には、アジア初となる脳神経外科手術ロボット“Neuro Mate”が導入されました。分子生物学的研究の成果とコンピュータ技術の融合により、分子イメージング開発、新規手術機器開発、及び新しい個別化及び層別化医療の実現と分子標的薬の開発による治療の向上を目指している。

このような活気溢れる教室に、君たちのエネルギーを注ぎ込み、思いっきり新たな世界へ向かって羽ばたく未来を創造しようではないか。来れ若者!