内視鏡・低侵襲グループ

下垂体腫瘍、頭蓋底腫瘍に対する内視鏡手術

近年、内視鏡を用いた手術が盛んに行われるようになっています。それは手術機器や道具、また手術技術が目覚ましく成長しているためです。われわれ内視鏡・低侵襲グループは、この内視鏡手術を数多く行っています。とくに、脳にできた傍鞍部腫瘍(下垂体部や、その周辺の脳内腫瘍)の治療を行っています。
傍鞍部腫瘍は下垂体腺腫を始めとして、ラトケ嚢胞、頭蓋咽頭腫、斜台部脊索腫、鞍結節髄膜腫など様々な腫瘍を含みます。内視鏡を用いる手術は直接、頭を切るわけではなく、鼻の奥の粘膜を切開して、そこから腫瘍に到達していきます。

片側の鼻に内視鏡や、手術道具を入れて腫瘍に到達していきます。

実際の手術中の写真です。片側の鼻に内視鏡や、手術道具を入れて腫瘍に到達していきます。

内視鏡の先端から得られた情報をモニターに映し出し、手術を進めていきます。

内視鏡の先端から得られた情報をモニターに映し出し、手術を進めていきます。

モニターに映し出される映像です。

モニターに映し出される映像です。腫瘍のみならず血管、神経の走行までしっかり確認することができます。それらを損傷しないように、繊細な手術を行うことができます。

このような内視鏡を用いた傍鞍部腫瘍の手術を名古屋大学病院およびその関連施設において年間200例程度行っております。(2016年集計)
また、最近では非常に巨大な傍鞍部腫瘍に対しては「経鼻+開頭同時手術」という手術方法を取り入れており多数行っています。巨大な腫瘍を摘出する場合、脳内の重要な神経や血管を損傷するリスクが上がってしまいます。腫瘍を摘出するのに大事な事は腫瘍摘出率を上げることですが、神経後遺症を残さないといった安全性も重要です。これを実現するのが「経鼻+開頭同時手術」です。

経鼻+開頭同時手術

Nagata Y. et al Fully endoscopic combined transsphenoidal and supraorbital keyhole approach for parasellar lesions. J Neurosurg. 2017 Apr 28:1-10. より引用。

経鼻側はもちろんですが開頭側も眉毛に沿って数cm皮膚を切るのみですので、術後の傷は目立ちません。

詳しくは名古屋大学神経内視鏡グループホームページまで(リンク:http://neuro-endoscope.com/

水頭症について

人間の脳の周囲には髄液という液体が存在しており、脳室という空間で産生されたのち小脳の下方で脳の表面に流れ出て、頭蓋骨内・脊柱管内を満たし上部のくも膜顆粒という部位から吸収されるという循環をしているといわれています。髄液は一日500ml程度産生されるとされ、一方で脳室やくも膜下腔など髄液が通常たまっている部位(髄液腔)の容積は正常で150ml程度で、髄液は一日に3~4回ほど入れ替わるとされています。 
 
水頭症は何らかの理由で、頭蓋内にこの髄液が貯留し、脳の機能の悪化がみられる状態のことを言い、交通性水頭症と非交通性水頭症に大きく分かれます。このうち内視鏡治療が有効であることが多いのは非交通性水頭症です。非交通性水頭症は髄液の流れを遮るような原因が存在する水頭症で、その原因としては脳出血や脳腫瘍による圧迫や閉塞、あるいは脳内の髄液の経路のどこかに膜のようなものが形成されることなどがあります。(特発性中脳水道狭窄やBlake’s pouch、四丘体槽くも膜嚢胞、孤立性側脳室下角、孤立性第四脳室など)(一方交通性水頭症は明らかな閉塞起点が認められないのにもかかわらず髄液の貯留がみられる状態で、脳自体の髄液の吸収能の低下が主因と考えられており。多くは下記にあるシャント術が必要です。くも膜下出血後の水頭症や正常圧水頭症などがこれに当たります。)
 
水頭症の治療は原疾患の治療(開頭手術などで血の塊や腫瘍をとり閉塞を解除する)以外では従来シャント手術という、髄液を腹腔あるいは血管内に流すチューブを挿入する治療が一般的でした。この治療法は歴史のある治療法で現在の脳外科医にはなじみの深い方法でありますが、体内にチューブ、圧力を調整する機械を埋め込む必要があります。基本的には危険性の少ない手術ですが、少数例で人工物を挿入するため感染のリスクや圧設定のコントロールが難しい状態(slit ventricle syndrome)になることがあります。また現在まで多くの施設ではシャントチューブは体表の解剖学的指標をメルクマールにして挿入するためチューブの先端が正確に脳内のどこにあるかは手術中にはわからず、そのため最適な部位・方向に確実に誘導するのが難しく、またより深部の脳室に挿入するのは極めて困難でした。
 
近年の内視鏡技術の発展により、非交通性水頭症において内視鏡を用いた開窓術を行うことで、髄液の経路を再開通あるいは新たに別の部位で確保することで、シャント手術を避けることができ、これにより上記のようなシャント手術に伴う合併症を防ぐことができるようになってきました。(内視鏡下第三脳室底開窓術、くも膜嚢胞の開窓術など)また症例により開窓して新たな髄液路を作っても再閉塞をきたしやすい状態の患者さんもおり、その場合閉塞しないようチューブを留置することがありますが、その際でも以前では難しかった脳室の部位まで内視鏡で確認し安全にまた確実に挿入することができるようになりました。(ステント手術と我々は呼んでいます。)

また非交通性水頭症の主な原因の一つに脳室内、脳室周囲の腫瘍による閉塞が挙げられますが、水頭症の治療を行う際に同時にこれらの腫瘍細胞の一部を採取(生検)することが可能です。

これらの治療には軟性鏡という胃カメラのようにしなやかな動きが可能な内視鏡を用いて行うことが多いです。柔らかいため、動きの自由度が高く観察範囲が広いことが利点ですが、一方で実際に病変を操作する鉗子などの道具が内視鏡を通して通常一つしか使用できず腫瘍そのものに対する操作の自由度・精緻さが顕微鏡下の手術や硬性鏡と呼ばれる内視鏡下の手術と比較した場合高くないため、腫瘍を全部取ってしまうような治療は難しいことが多いです。部位や腫瘍の性状により、一部の腫瘍では硬性鏡という別の種類の内視鏡を用い、複数の道具を患部に挿入して、水頭症の原因となる腫瘍の摘出術が可能な場合もあります。
 
これまで長く書きましたが、水頭症に関しては様々な病態が関与しており、患者さんごとの状態が多岐にわたるため、すべてが画一的な治療方法で行えるわけではなく、患者さんごとでの病態および治療法の検討が必要です。

詳しくは名古屋大学神経内視鏡グループホームページまで(リンク:http://neuro-endoscope.com/

新たな内視鏡を用いた低侵襲手術

名古屋大学脳神経外科は内視鏡治療の長い歴史を持ち、現在積極的に低侵襲な内視鏡治療を行っています。
これまで内視鏡手術は空間のあるところ(外科などでは腹腔や胸腔、耳鼻科などでは鼻腔というように腔を利用)での手術が主でした。脳神経外科領域においても、鼻腔を介した下垂体腫瘍や脳室という空間を利用した脳室内腫瘍の摘出術が行われてきました。近年ではさらに適応が広がり、脳の正中にある病変(頭蓋咽頭腫、髄膜腫、脊索腫など)にも安全に到達でき、摘出できるようになりました。

内視鏡の特徴として、間口が狭くても深いところで広くて明るい視野が得られます。透明な筒を利用することで脳内の腫瘍を取ることができるようになってきました。この背景には、狭い場所でも操作できる極めて細い道具の開発、出血を止める止血デバイスの改良があります。それにより嚢胞性の腫瘍や約3cm程度の腫瘍であれば摘出できることが増えてきました。また開頭術と同様に電気刺激による神経モニタリング(MEP・SEPなど)を利用することで、手術中に脳機能を観察する事で、より一層安全な手術が提供できるよう努めています。

腫瘍に対する内視鏡治療の利点としては

  • 4cm程度の皮膚切開にできる。
  • 小さな開頭で深部にある腫瘍を摘出できる(いわゆるkeyhole surgery)。
  • 深部であっても腫瘍の近くまでカメラを近づけることでよく観察することができる。
  • 筒を利用することで脳組織の損傷を軽減できる。

という点が挙げられます。現在も道具の開発は進んでおり、今後適応が更に広がる可能性が高いです。

この手術法は傷が小さく、周囲の脳をあまり触らないことで損傷を軽減させることができ、術後の回復が早く、術後早期に食事を開始、離床、リハビリを行うことができるという利点があります。

また最近では脳幹部を含む海綿状血管腫に対しても威力を発揮することがわかってきており、今後更に適応が拡大することが予想されています。

詳しくは名古屋大学神経内視鏡グループホームページまで(リンク:http://neuro-endoscope.com/