脳卒中外科グループ

脳卒中におけるバイブリッド治療

ハイブリッド治療とは、開頭手術のみで治療するのではなく、血管内カテーテル治療による血管塞栓術の支援や、放射線治療(ガンマナイフ)といった最新の治療を組み合わせることで、通常では治療が困難な病気に対して複合的な治療を行うことをいいます。当科では、血管内治療医を交えた「血管カンファレンス」を定期的に開催し、適宜放射線治療医にも相談しながら最適な治療方法を議論しており、それぞれの治療の長所を最大限に生かしたハイブリッド治療をご提供することができます。また、脳神経外科のみでなく、神経内科や循環器内科と方針を協議することもハイブリッド治療の1つといえるでしょう。症例によって各科ともカンファレンスを行い、内科治療を優先することもあります。

ハイブリッド治療の対象となる疾患の1つに脳動静脈奇形(AVM)があります。大きさや存在する場所などにより治療の難易度は様々で、症状の有無でも治療方針が大きく異なります。外科手術のみでは安全に摘出できない場合でも、血管内治療や放射線治療を組み合わせれば、手術前に摘出可能な大きさに縮めたり、出血の危険性が高い血管を詰めて手術中の出血量を減らすことが可能で、安全な外科手術ができるようになります。
 当科ではこうしたハイブリッド治療を、手術中にも行うことができます。2014年8月に血管撮影装置を備えた、ハイブリッド手術室(Hybrid OR)を導入し、血管内治療チームによる手術中の血管撮影、治療が可能となりました。それにより、手術中に複雑な血管構造を同定、外科治療が困難な部位を血管内治療で同時に治療、異常血管の残存の有無を確認してから手術を終える等々、通常の手術室では行う事ができない様々な利点があります。脳動静脈奇形の他にも大型動脈瘤などに対しても、この技術を用いることで安全確実な手術をすることができます。

ハイブリッド手術室
<ハイブリッド手術室>

もやもや病への取り組み

臨床研究:RNF213の網羅的解析について

もやもや病有病率は約10万人に5人程度であり、東アジア(日本、韓国、中国)で特に多い傾向があります。発症原因についてはまだよくわかっていませんが、12%程度の家族内の発症がみられるため遺伝子の関与が強く疑われています。

2010~2011年にかけて、もやもや病の方の多くに17番染色体上のRNF(ring finger protein)213という遺伝子に共通して異常があることが報告されました。RNF213遺伝子は血管の脆弱性に関係しており、異常があると、血管の狭窄や異常血管の新生が促されやすいことがわかっています。もやもや病を発症していない方の中でも2~3%の頻度でこのRNF213遺伝子の異常が認められるため、これだけでもやもや病を発症するわけではありません。

しかしRNF213遺伝子異常の有無が臨床経過(病気の悪化や進行の程度)とも関係していることが報告され、臨床経過を予想する上でとても重要な因子の一つであると考えております。そこで私達はRNF213遺伝子検査(異常なし・ヘテロ接合体・ホモ接合体)が、病気の進行や早期発見・治療に繋がるかどうかを検討しています。一方、もやもや病以外の脳血管疾患でもRNF213遺伝子異常の合併率が高いこともわかってきています。当科では生命倫理審査委員会の承認を得て脳動脈狭窄・閉塞性疾患の方もRNF213遺伝子の検査の対象として脳卒中の早期発見や早期治療に繋がるかどうかの研究も行っています。

基礎研究:脳脊髄液タンパク・遺伝子解析

私達はもやもや病患者さんの脳脊髄液中に含まれるタンパクや遺伝子について研究を行っています。

1.もやもや病の方とそれ以外の病気の方の髄液に対して解析を行い、2種類のタンパク(m/z4473と m/z4588)がもやもや病の方の脳脊髄液中で有意に上昇していることを発見しました(Araki et al. BMC Neurology 2010, 10:112)。
脳脊髄液タンパク・遺伝子解析

2.続く研究では、先の2つのタンパクのうち、m/z4473が小児もやもや病の方で特に高値で、年齢依存性に減少することを報告しました(Maruwaka et al. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 24, 2015: pp 104-111)。
Maruwaka et al. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 24
現在は、そのタンパクがどのような機能をもつのかの検証をすすめております。

基礎研究:中大脳動脈・浅側頭動脈・硬膜の遺伝子発現解析

私達は先に述べたタンパク解析に加え、もやもや病の手術で得られる検体(中大脳動脈・浅側頭動脈・硬膜)の遺伝子解析も行っています。これらの検体は非常に少量であり技術的に困難なため、世界的にみても同様の研究はほとんど行われていませんが、私達は脳腫瘍グループとも協力しながら、わずかな検体から遺伝子発現解析が可能になってきています。中大脳動脈・浅側頭動脈・硬膜の遺伝子発現を調べて対照群(もやもや病以外の方)との比較を行うことで、もやもや病の原因や病態に関わる遺伝子異常を明らかにしていきたいと考えています。

基礎研究:もやもや病マウス・ラットの作成

もやもや病の動物モデル作成も一つの目標です。動物のもやもや病モデルを作成できれば、もやもや病の原因検索において非常に有用となります。