教室紹介

脳神経外科100年の歴史と伝統に裏打ちされた包括的若手指導教育体制と最先端医療推進拠点

第1回~第3回日本脳神経外科学会の会長を務めた斎藤眞博士により創設された名古屋大学脳神経外科は、博士が名古屋大学に着任(1917年)以来、100年の歴史を持つ。この脳神経外科学の歴史と伝統に裏打ちされて、名古屋大学医学部脳神経外科学教室は大きく発展してきた。脳外科同門会員数400余名の下、名古屋大学が基幹施設となり、34の研修施設、24の関連施設及び100以上の関係病院を擁する日本最大級の臨床拠点の下、年間10,000件の手術、20,000件の入院症例に対応している。このような豊富な臨床経験の現場で、若手研修医は優秀な指導医の下で、手術の入門のイロハから最高難度の手術までを体験しつつ、専門医試験を受ける7年目までには、世界のどこにも負けない臨床の実力を身につける研修システムが組み込まれている。

専門医試験合格後は、各人の能力と希望により、それぞれのサブスペシャリティーに分かれて、さらに専門性の高い臨床体験と未知の領域への研究マインドの育成が始まる。現在、脳腫瘍グループ、脳血管外科グループ、脳血管内治療グループ、機能外科・てんかん外科グループ、神経内視鏡・内分泌グループ、脊椎・脊髄グループ、小児脳神経外科グループ及び最先端医療グループの8つのグループに分かれているが、境界領域として、頭蓋底外科、術中画像誘導、神経外傷、神経再生、感染症なども個別に活動を展開している。その他、横断的組織としての先端医療・臨床研究支援センター、脳とこころの研究センター、小児治療センター、解剖学トレーニングセンター(CALNA:Clinical Anatomy Laboratory in Nagoya)などとも有機的に活動している。

各グループに所属後、その最先端研究に直接触れるために、国内外の超一流機関への留学は積極的に推奨しており、当教室の故杉田虔一郎名誉教授が設立したスギタスカラーシップを利用して、海外からの若手研究者の招聘、海外への留学支援及び海外研究施設との積極的な交流を図っており、毎年多数の同門のメンバーが海外での学会参加や留学を経験している。また、医局には常に海外からの留学生が複数人在籍しており、居ながらにして国際交流が体験できる。一方では、地域貢献も重視しており、日本脳神経外科学会中部支部会の事務局として東海北陸中部地区12大学との積極的な交流と地域医療の活性化を推進している。

医療現場では、先進医療を駆使して世界屈指の脳神経外科医療体制を誇るとともに、超高精度脳神経外科手術室の”Brain Theater”を駆使して、分子標的イメージング技術と連動した高精度画像誘導手術(術中MRI)、脳血管治療ハイブリッド手術室、ロボティクスを用いた定位的脳手術、分子標的治療、遺伝子治療・細胞療法等の先端医療への臨床研究開発にも積極的に取り組んでいる。

名古屋大学病院脳神経外科スタッフ集合写真
名古屋大学医学部脳神経外科学教室スタッフ

教育方針

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名古屋大学医学部附属病院は、歴代の院長が築き上げてきた基盤の上に、斬新なアイデアの下に改革を次々に断行し、その結果、名大病院は、診療実績、教育基盤、研究業績のいずれの面も大きな発展を成し遂げた。トランスレーショナル研究拠点、臨床研究中核拠点、小児がん研究拠点はもとより、産学官連携の推進、早期創成科学プロジェクトセンターと共同で各種プロジェクトの推進、脳とこころの研究センターの創設などを先導した。名古屋大学医学部の特色として、全国に先立ちマッチングシステムを取り入れ、独自の名古屋大学方針として永年築き上げて来た卒後全科ローテーションシステムにより、全人的な医療および中部地区の地域医療を支え、優秀な臨床医が育ってきている。その結果、愛知県を中心とする東海4県への研修希望者が毎年多数参集しており、その結果、臨床に強い医師の要請機関として、その存在感は更に強まって来ている。

一方、わが国は、世界で類をみないスピードで超高齢化社会を迎え、今後、65歳以上が総人口に占める割合は、2025年には30%を越えるものと予測されている。平均寿命の上昇により、医療現場においては、高齢化に伴って増加する、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、慢性腎疾患等の慢性疾患が医療費の多くを占めるようになってきており、この抜本的解決を目指した取り組みが緊急課題となっている。名大病院の今後取るべき方向性は、国内のみならず国際的な視野の下に、上記各種疾患に対する創薬を含めた大型臨床研究の受託推進体制を創り上げるとともに、2012年に名大に創設された創薬医薬大学院を初めとする各種研究機関から生まれでてくる名大発の創薬開発を、臨床応用に導くために支援する開発基盤を早急に立ち上げ、それ産業化して世界に冠たる臨床研究拠点を組織化することである。名大病院は、東海地方を中心に、わが国の国立大学病院の中で最大級の関連病院数を誇る。約70病院(総数約31,000床)の関連施設の中には臨床研究や臨床治験が自ら行える500床以上の大規模病院が34施設あり、医学生及び卒後研修制度の人材教育、診療教育の実績では他に類を見ないネットワークを構築している。

診療方針

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名古屋大学関連病院(代表的51施設)を含めると年間総手術件数は1万件以上。
年間入院患者総計は2万例以上となる。
講座内はその疾患及び治療の専門性別に以下の8つのグループに分かれて、各部門で最先端の医療に取り組んでいる。

1)脳腫瘍グループ

超高精細画像誘導手術室”Brain Theater”を擁した最先端手術にて脳腫瘍摘出率の向上と機能予後の改善を目指す。術後補助療法として、悪性腫瘍に対する新たな併用化学療法を提唱し、JCOG(Japan Clinical Oncology Group)の協力の下、標準治療確立のため研究代表施設として邁進している。先端医療の臨床研究開発としては、悪性脳腫瘍への遺伝子治療臨床応用を日本初に実施した施設であり、先端医療推進の拠点として、遺伝子治療、細胞療法、再生医療等の先進医療開発研究を手掛けている。

2)脳血管内外科

脳動脈瘤、脳動脈狭窄病変、動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、血管外傷、脳塞栓、血管性腫瘍等、適応疾患は多岐にわたる。スタンダードな血管内治療法は既に確立しているが、未だ適応、合併症、長期成績等解決されるべき課題が山積みである。使いやすいデバイスの開発、産学連携により画像情報処理の改善、コンピュータシュミレーションモデルを用いた血管内動態の診断・治療の改善等による治療成績の向上に努めている。また、救急医療との提携により、医療機関ネットワーク体制の確立により血栓溶解術の迅速対応体制や、脳卒中後の回復期リハ施設や在宅医療との提携による有機的治療体制の確立、更には脳ドックによる予防医療の啓発活動を押し進めている。

3)脳卒中外科グループ

モヤモヤ病等に代表される閉塞性疾患に対する病態解明の為の新たなバイオマーカーの解析やあらたな治療法の確立の基礎研究に取り組んでいる。臨床的にはバイパス手術や内膜剥離術等の手術手技向上の為の様々な工夫を凝らしている。さらに、スギタクリップの機能向上の為の検討を実施し、性能向上を諮っている。

4)神経内視鏡・内分泌グループ

頭蓋底局在腫瘍に対し頭蓋底手術、神経内視鏡手術、キーホール手術、シリンダー手術、Wet field 手術など特殊技術を要する手術法を駆使して、摘出困難な腫瘍に対し、安全性を高め、しかも摘出率を向上させる手術法の開発に努めている。特に、神経内視鏡は医工学連携にてMRI/CT画像を用いたバーチャルナビゲーション技術を駆使し、機能性の高い手術機器の開発を手掛け、適応範囲の拡大を諮っている。

5)機能外科・てんかん外科グループ

薬では難治性となった不随意運動(パーキンソン病、振戦)、てんかん、痛みに対し、近年進歩著しい脳神経画像診断技術と連携して、定位脳手術を実施。視床下核深部刺激術、視床Vim深部刺激術、運動野刺激術、焦点切除術などに工夫を凝らした新たな手術法を確立してきている。また、各種診断画像情報の処理による3次元バーチャルシュミレーションの構築やロボティクスによる高精度定位脳手術、分子イメージングへの開発も進めている。

6)脊髄・脊椎グループ

神経モニタリングや術中ナビゲーション技術を駆使して、低侵襲で最大の効果を引き出せる努力を検討している。特に、両開き式椎弓拡大形成術(トランペットラミノトミー)の導入にて長期に安定した手術成績が得られるようになってきた。対象疾患の適応拡大に伴い、高年齢層の症例が増加の一途を辿っており、加齢による再狭窄への対応を検討している。

7)小児脳神経外科グループ

小児脳腫瘍、小児脳血管障害、先天奇形、神経外傷、感染症、水頭症など幅広い範囲を小児がん拠点病院の中核として、小児科等との有機的連合で治療している。院内にはドナルドマクドナルドハウスが整備され、患者および家族の宿泊施設が完備しているため、遠方や海外からの患者紹介も多いのが特徴である。

8)最先端医療グループ

悪性脳腫瘍の遺伝子治療に代表される最先端医療を支える横断的グループである。分子脳神経外科学を基盤におき、全グループの先端医療開発を推進支援している。近年は、コンピューターテクノロジーを基盤とした新しい医療インフラ開発を手掛けている。

研究方針

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臨床系教室といえども、基礎研究が臨床研究に直結する課題を双方ともこなしていく研究者が多数必要であるが、この分野において臨床的知識と基礎医学的知識の両方に精通する人材は本邦では極端に不足している。神経再生の分野も多様化しており、現在の研究者だけではすべての研究の遂行は困難であり、これらを次世代に継続する若手研究者の育成が必要である。我が国と相手国の双方の優れた知見を共有し共同研究を推進することで、多様化したこの分野の世界標準の視点だけでなく、人的ネットワークの構築と、今後の継続的な研究を行うための経験・知識の水準の向上が可能となる。当教室の構成員は、研究面では国内及び海外パートナー機関と国際共同研究を継続し、今までにも多くの国際的評価を挙げてきている。また、教育面では後続する若手研究者を指導することで研究集団を形成し、研究者を持続的かつ発展的に育成するシステム構築に既に長けた多くの若手研究者が共通のテーマの元に先駆け的なデータを次々と発見してきている。このように、国内および海外で研究経験を積んだ若手研究者が増えるに従って、若手へ及ぼす刺激の波及効果は測り知れず、次々と世界を目指すようになり、より一層の研究の発展と国際化を達成できると考えられる。このように、当大学にて若手研究者の育成とその後の研究職従事によるアカデミアの発展を前提に悪性脳腫瘍治療の臨床応用へ向けたトランスレーションリサーチの先駆けとして活躍している若手研究員は、海外研究実績に重きを置いており、その国際的な視野が備わっている。当研究科は基幹大学であるため、その活動が国・社会からの支援によって行われている以上、その活動に関しての適切な評価は研究の活動の状況を積極的に外部に発信してこそはじめて国・社会に意義をなすため、学会・論文などでの報告がまず評価の対象となる。すでに、当教室のメンバーは多数の学会活動や論文作成に携わって来ており、その能力や将来性には全く不足はない。

脳神経外科様の強み・特徴

国際的一流雑誌への論文投稿多数

国際的一流雑誌への論文投稿多数各種難治性疾患の病態解明とその治療法の確立のために、網羅的ゲノム解析手法の人材育成は、喫緊の課題である。これは、脳神経外科領域で未だ治癒に至らぬ多くの疾患のある中でも、特に生命予後の悪い悪性脳腫瘍の基礎・臨床の発展ためにも急務を要する事態である。近い将来、このような最先端研究を臨床応用する際に世界をリードして臨床と基礎医学を橋渡しする人材育成が必要である。これらの基盤のもと脳腫瘍の網羅的ゲノム解析基礎研究の臨床応用の実現を早期に展開し、悪性脳腫瘍の細胞医療・免疫療法・ワクチン療法などをも実現するために、名古屋大学大学院医学系研究科及び附属病院では、脳腫瘍疾患だけでも多数の入院数と脳腫瘍摘出手術数を誇り、国内有数の臨床実績のもと、多彩な臨床例に対する新たな臨床研究の出来る環境下にある。次なる飛躍として、同時に基礎研究及び臨床研究の大きな市場規模・実績を有する北米にまでネットワークを拡大する目的で、名古屋大学脳神経外科同門の若手研究員をカナダのトロント小児病院へ継続的に派遣している。その成果は、国際的一流雑誌に掲載され(Suzuki H, et al; Nature genetics 47(5), 458-468, 2015 )、2016年に改定されたWHOの脳腫瘍分類(第4版改訂版)にも引用されている(Reference No.2464)。また、カナダのトロント小児病院に所属するMichael Taylor氏は、小児の代表的悪性脳腫瘍である髄芽腫の網羅的ゲノム解析では世界をリードする研究を推進しており、この2施設による共同研究でさらなる研究の発展が見込まれると思われる。現在、我々はこの2施設の国際的共同研究により脳腫瘍のエピジェネティック解析による創薬の研究を継続しており、これらの細胞療法あるいは分子標的医療での応用により融合的な新領域、脳腫瘍撲滅への発展をも視野にいれている。さらに本事業は日本国内の複数の施設とも共同して行うため、国内での連携をも強め、ネットワークの構築は相乗効果にて加速する予定である。

日本脳神経外科学会第76回学術総会開催(名古屋大学主管で8回目は過去最多)

当教室は、日本脳神経外科学会第76回学術総会を、2017年(平成29年)10月12日~14日の3日間、名古屋市内の名古屋国際会議場にて開催する。本会は、1948年に当時名古屋大学教授の斎藤眞会長の下、新潟で開催された第48回日本外科学会総会に、併催された第1回日本脳・神経外科研究会がその起源である。本会開催にて、脳神経外科学を中心に、基礎・臨床の多方面にわたる研究発表を通じて、会員相互の知識や情報の交換、世界的権威の招聘交流による新たな世界観の構築、関係学会や研究会、行政、経済界等との提携による我が国の脳神経外科学の発展と普及に多大な貢献をしてきた。昨年開催された第75回総会では、演題総数2,500余題、参加者は5800名を越え、会員総数9,400余名を擁する程の学会に成長した。内容も、脳神経外科学全般を網羅した内容の豊富さは他の学会には類を見ない構成となっている。第76回学術総会でも会員による活発な討論を期待するとともに、積極的な情報交換の場を設け、“i 知の創出(脳科学の近未来)”(Novos Philososhia-Neuroscience in the near-future)のメインタイトルのもと、特色ある各種企画の開催を検討しております。特に、30余年来の旧友であるJames Thomas Rutka(JNS Editor-in-Chief, University of To-ronto, Canada)先生には、“Paediatric Neurosurgery; Entering a brave new world”をご講演戴く。特別企画としては、”International symposium”(グローバル化する脳神経外科医療)、”Intelligence symposium”(知性が結集する脳神経外科医療)、”Inspiration symposium”(創造・想像する脳神経外科医療)、”Innovation symposium”(技術革新を目指す脳神経外科医療)、”Integration symposium”(統合化する脳神経外科医療)と銘打った5つの” i-Symposium”を設け、最新情報の共有と熱い討論を繰り広げたい。

脳神経外科教室100年の歴史

脳神経外科教室100年の歴史名古屋大学脳神経外科教室の歴史は古く、日本脳神経外科学会の創設者の一人で第1回から第3回までの会長を務めた齋藤眞教授より始まる。その後、脳神経外科学講座が外科学講座から独立し、初代教授となった景山直樹教授は脳腫瘍学及び脳血管内治療学を確立し、各々日本脳腫瘍病理学会及び日本脳血管内治療学会の設立に尽力された。特に、それまで難治性疾患とされていたクッシング病の病態解明とその手術的治療法を確立し、経鼻的手術法の発展に寄与した。第二代目の杉田虔一郎教授は脳神経外科の顕微鏡手術の確立による手術精度の向上に中心的役割を果たした。様々なマイクロ手術機器の開発に精力的に取り組み、特に、脳動脈瘤治療の「スギタクリップ」は、現在でも全世界で頻用されている。第三代目の吉田 純教授は生命科学・医用工学の進歩を脳神経疾患医療に取り入れ、脳腫瘍の遺伝子治療、細胞・再生医療や、脳血管内治療の開拓に尽力するとともに、コンピューター・画像診断の新しい技術を導入した精巧な手術法を開発し、術中MRIやナビゲーション手術を駆使した進化型手術室(Brain Theater)を擁立した。一方、地域社会への医療還元のために、脳卒中外科を中心とする救急医療情報ネットワークの構築を進めた。平成20年から、第四代目教授として若林俊彦が着任し、脳神経外科領域の高度先進医療開発と、基礎研究から臨床研究までのシームレスの包括的医療体制の整備に力を注いでいる。