機能外科・てんかん外科グループ

概要紹介

最先端技術を駆使したてんかん外科手術、機能外科手術と、医療連携を介して患者のQOLを重視した包括的治療の実施

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私たちのグループでは、主にてんかんの外科治療と、機能的脳手術の二本立てで取り組んでおり、臨床及び研究の両面で精力的に取り組んでいます。

てんかんは脳内の同期した過剰な異常神経活動に基づいて、手足の震え、意識障害を一過性に生じる疾患です(図A)。1000人に4-8人の有病率を示す稀ならぬ疾患です。てんかんの約7割は薬物治療でコントロールされますが、残りの3割程度が薬物治療に抵抗性であり、その半数が外科治療を考慮する事となります。この様な患者に対して、名古屋大学脳神経外科では、最先端の技術を駆使して“てんかん焦点”を適切に診断し、安全かつ十分な効果を発揮できる手術を行っています(図B)。また、てんかん患者の要望は、単にてんかんの良好なコントロールのみでなく、同時に社会生活への復帰であると認識しています。この達成には、外科治療の際の高次脳機能の温存が必須です。更に、心理面も含めた総合的なケアの実施が必要であり、当院の小児科、精神科、神経内科、リハビリテーション科、てんかんセンター(静岡)、脳とこころの研究センターなど、多くの様々な分野の専門家と、職種、専門医、診療科、施設間を越えた密接な医療連携に取り組んでいます。

図A
<図A>
図B
<図B>

パーキンソン病、ジストニア、本態性振戦といった不随意運動の疾患は、運動の調整のネットワークの異常で、主に脳の中心近くの大脳基底核という場所が治療の対象となります。内科での薬物治療を行い、症状の進行とともに十分な効果が得られない場合や、副作用などが問題になる場合などが、手術の適応となります。名古屋大学では神経内科医や言語聴覚士の専門家とともにDBSチームを結成し、手術前の評価も多面的に行い、適応の判断や手術の方針、術後の効果判定や副作用を軽減するための調整についても、チームで随時評価検討を行っています。また、手術は最先端の3T MRIの画像を用いた治療計画を基に、定位脳手術用ロボットneuromate®図C)を用いて、正確性安全性の高い手術を実現しています。

図C
<図C>

スタッフ一覧

現在の名古屋大学脳神経外科のメンバー

  • 大学院生加藤 祥子Sachiko KATO(平成22年卒)
  • 大学院生石崎 友崇Tomoya ISHIZAKI(平成22年卒)
  • 大学院生柴田 昌志Masashi SHIBATA(平成19年卒)

関連病院在籍メンバー

  • 名古屋国立医療センター梶田 泰一Yasukazu KAJITA(昭和59年卒)
  • 静岡てんかんセンター臼井 直敬Naotaka USUI(平成5年卒)
  • 岩倉病院野田 寛Hiroshi NODA(平成7年卒)
  • 海南病院遠藤 乙音Otone ENDO(平成10年卒)
  • 名古屋セントラル病院竹林 茂典Shigenori TAKEBAYASHI(平成10年卒)
  • 名古屋第一赤十字病院藤谷 繁Shigeru FUJITANI(平成12年卒)
  • 名古屋セントラル病院種井 隆文Takafumi TANEI(平成14年卒)
  • きたおわり在宅支援クリニック吉田 康太Kouta YOSHIDA(平成16年卒)
  • 愛知県心身障害者コロニー永井 俊也Toshiya NAGAI(平成17年卒)
  • 安城更生病院片岡 弘匡Hiromasa KATAOKA(平成19年卒)
  • 聖隷浜松病院飯島 健太郎Kentaro IIJIMA(平成20年卒)

診療概要

診療方針

  1. ガイドラインに沿った、適切なてんかん外科治療
  2. 医療連携を介した、患者さんのQOLの確保と第三次センターとしての役割の遂行
  3. 焦点診断、及び手術における先端的技術の開発
  4. 内科外科の壁を越えたチーム医療による機能的脳神経外科診療
  5. 画像誘導及びロボット技術による正確性の高い、安全性の高い手術の実現

特徴的な治療

ガイドラインに沿った適切なてんかん外科治療

てんかんの手術適応については、静岡てんかんセンターの三原先生らの作成したガイドラインが参考となります(三原忠紘ら,てんかん研究 26(1), 2008)。彼らは手術適応となるべきてんかんを5つ掲げています。それは、内側側頭葉てんかん、器質病変が検出された部分てんかん、器質病変を認めない部分てんかん、一側半球の広汎な病変に伴うてんかん、失立発作を持つ難治性てんかんです。勿論、てんかん診断が正しい事が大前提である事を彼らは強調しています。これらのてんかんに対して施行される一般的な術式を挙げます(表1)。内側側頭葉てんかんに対しては側頭葉切除術、さらに選択的に海馬扁桃体を切除する術式(選択的海馬扁桃体切除術)が行われます。器質病変が検出された部分てんかんには、その病巣を切除する術式と、さらに脳波や画像にて焦点を同定しこれを切除する術式が行われます(焦点切除術)。病変を認めない場合には、脳波、画像より焦点を同定してこれを切除します(焦点切除術)。他に、一側半球の広汎な病変に対しては機能的大脳半球切除術が行われ、頻回に転倒してしまう失立発作に対しては脳梁離断術、また最近は迷走神経刺激術が行われます。手術時期に関してもガイドラインで次の様に示されています。手術対象は薬剤抵抗性の症例に限られますが、2ないし3種類の抗てんかん薬による薬剤療法が十分になされている事、また、発作の抑制されない状態が2年以上持続している事としています。小児においては、精神運動発達遅滞や退行を防ぐ目的で、難治であれば2年間にこだわらず、可及的速やかに手術を行う事が勧められています。

表1
<表1>

てんかん外科の実際―症例提示

てんかん外科の代表的な疾患である、内側側頭葉てんかん、器質病変が検出された部分てんかんに対して、自験例を提示して実際の治療を紹介します。

症例1.
【病歴】
37才男性。既往として熱性けいれんがあります。利き手は左。7歳時より突然意識が悪くなる発作がありました。 発作はいつも前兆(異臭)を伴い、突然 一点を凝視し、立ち止まったり、動かなくなったりします。発作中、口をぺちゃぺちゃさせたり、左側の手足をくねくねさせたりする。逆に右手には力が入り、強直する。発作は1~2分間継続し、発作中に話かけても返答はありません。発作頻度は日に3~4回 ありました。これらの症状(前兆、動作停止、一点凝視、口部自動症、四肢自動症、意識減衰)は内側側頭葉てんかんの複雑部分発作の特徴です。海馬、及び大脳辺縁系にてんかん活動が及んでいる際の症状であり、一見精神的な疾患を疑うような症状であるから、精神運動発作とも呼ばれています。また焦点反対側の強直の存在を認めます。これは発作活動が側頭葉から運動にかかわる脳、つまり前頭葉へ伝播していった時の症状であり、対側の上下肢に痙性、強直が加わるものです。これらから発作焦点は左側の側頭葉内側にある事が推測されました。この症例ではラモトリギン 200mg/2×1、カルバマゼピン900mg/3×1が投与されていました。
【術前検査】
図1はこの患者の脳波所見です。非発作時には棘徐波が左側頭葉前半部に出現しています。発作時には律動波は左側頭部内側より起始し全体に広がります。左側頭葉内側てんかんの脳波所見と一致します。図2左はこの患者の放射線学的検査です。頭部MRIでは、左海馬はFLAIRで高信号を示し、扁平化して縮小していることが分かります。いわゆる“海馬硬化”の所見です。(尚、対側に脈絡裂のう胞がありますが、これはてんかん発作とは無関係な所見であることを注意してください)。脳血流を測定するSPECTでは左側頭葉内側の若干の血流低下を示し、脳のブドウ糖代謝を測定するFDG-PETでは同部に明らかな代謝の低下を示しています。てんかん焦点付近では脳血流低下、代謝低下を示す事が多く、焦点診断のための重要な所見です。これらよりこの患者は左内側側頭葉てんかんの診断を得ました。

図1
<図1>
図2
<図2>

【手術及び術後経過】
内側側頭葉てんかんの手術として、まず、標準的な側頭葉切除術が挙げられます。これはてんかん原生である海馬、扁桃体を含む内側構造を、側頭葉前半部と共に切除する方法です。優位側では側頭葉先端より4cm、非優位側では6cm程度切除できます。手術の主たる目的は内側構造の切除ですが、このように皮質から切除することで良好な視野を得て、安全且つ効果的に遂行できる方法です。また、側頭葉外側皮質を温存して、内側の海馬、海馬傍回、扁桃体を選択的に切除する方法が選択的海馬扁桃体切除術です(図3)。術式として難度が高いですが、側頭葉皮質の機能を温存しつつ、てんかんを抑制する事ができる術式です。本症例には後者を行いました。術後のMRIでは選択的に海馬、海馬傍回、扁桃体が切除されている事が判ります(図2右)。術後6年が経過していますが、発作も前兆も完全に消失しています(Engel class1)。海馬摘出後は記憶機能が問題となりますが、この症例の場合、低下は無く生活上の問題はありません。内側側頭葉てんかんに対する手術成績の報告はランダム化試験、メタアナライシス、多施設共同前方試験等ありますが、術後の発作消失率に関しては64~77%とされています。中でも、2001年にWiebeらによってNew England Journal of Medicineに報告されたランダム化試験の結果では、薬物治療より手術を行った方が、発作抑制について良好であることが証明されています。一方、手術の合併症に関しては、頻度の高いものとして優位側における言語性記憶機能の低下、視野障害が挙げられています。この患者は二年間以上の無発作期間を経て、自動車運転を再開する事ができました。一人での運転を極力避ける事、睡眠不足時、疲れている時は乗らない事、長時間運転しない事など、勿論十分な注意を加えた上です。彼は公共交通機関があまり発達していない地域で畜農業を営みながら、妻と子供と共に生活をしています。彼の人生において自動車運転がいかに重要であったかは計り知れません。

図3
<図3>

症例2
【病歴】
次に、病変のある部分てんかんの一例として、前頭葉てんかんの症例を提示します。患者は14歳の女児です。幼少時より突然顔つきが変わり、手足を強直させる発作がありました。発作は前兆を伴わず突然起きます。短い発作(部分発作)では数秒~30秒程度であり、発作が終わるとすぐに回復します。大きな発作(二次性全般化)では、四肢をバタバタさせ、全身が強直します。短い発作は一日数回あり、大きな発作は週に3~4回生じます。この様に、側頭葉てんかんに比較して、前頭葉てんかんでは、発作が短い、運動症状を伴う、前兆を欠く、発作後もうろう状態が少ない、夜間に多い、等の特徴があります。またこの症例では知的障害があります。脳波所見では左右両方の前頭部より突発性の棘波が出現していました。
【術前検査】
まず頭皮上脳波電極による長時間ビデオモニタリング下脳波記録を行いました。約一週間で小さな発作(部分発作)と大きな発作(二次性全般化)を数回記録できました。部分発作では、突然顔つきが変わり、動作がとまります。一点凝視し、次いで右手に強直させます。発作は比較的短時間(10秒程度)で終了し回復も速やかでした。これらは前頭葉てんかんの特徴を示しています。二次性全般化では、症状は劇的でした。突然動作が停止し、右手が強直する。頸部が右回旋し、強直は両側性、そして全身へ広がっていきました。四肢をバタバタさせ、ビデオにはお母さんが必死に患児を抑制する状況が映っておりました。発作は約1分以内で終わります。右手が強直、頸部が右回旋することより、てんかん焦点は左にあると思われました。
頭部MRIでは、左前頭葉にT2で低信号を呈する異常信号領域を認めました。病変としては皮質形成異常やDNT(dysembryo-neuroepithelial tumor)が推測されました。SPECTでは同部に脳血流の低下を認め、FDG-PETではブドウ糖代謝の低下を認めました(図4)。

図4
<図4>

【頭蓋内電極脳波モニタリング、切除術、及び術後経過】
この症例では左前頭葉に明らかな病変があり、PET、SPECT所見、症候的にも同部がてんかん焦点と考えられます。しかし、どこまで切除するべきかが問題となります。画像上の異常領域のみの切除で良いのか、発作起始部がどこかを調査して脳波異常域も切除範囲に含めた方が良いのかを見極める必要があります。従って、Step 2である硬膜下電極留置術を行ない、約一週間の脳波モニタリングと、機能的マッピングを行ないました。図5では実際の手術の写真を示し、電極の位置を脳3Dイメージに重畳して示しています。脳波モニタリングは60極の電極より行ないました。図6は発作時の脳波ですが、矢印の部位より発作が起始しています。これはちょうど病変のすぐ外側の電極でした。硬膜下電極刺激による機能マッピングを行ない、ブローカ言語野、上肢の運動野を同定しました。また、脳波にて発作間欠期のスパイクが出現している領域、異常に遅いデルタ波が頻発している領域も考慮しました。これらの情報を統合し、切除範囲を決定しました。内側は大脳鎌、前方は前頭極まで、後方は中心前回のひとつ前の脳回、下面が帯状回、外側は下前頭溝までとしました(図7)。予定通りの範囲が摘出されており、術後機能悪化もありません。病理結果は皮質形成異常でした。皮質形成異常は、てんかん原生となる代表的な病変ですが、腫瘍細胞はありません。この症例も術後約5年経過していますが、発作は消失しています。患者の知的障害は継続してありますが、非常に活発となり、現在障害者支援施設での障害者枠としての雇用で就労しています。この様に、器質性病変が検出された部分てんかんでは、焦点を適切に評価して、焦点切除した場合、術後の発作消失率は約70%と言われています。

図5
<図5>

図6
<図6>

図7
<図7>

明らかな器質病変を認めない部分てんかんの場合、脳波所見、脳血流所見(SPECT)、脳代謝所見(PET)、MEG等で焦点を絞り込み、更に頭蓋内電極留置による脳波記録で焦点を同定できた場合に、焦点切除を行います。しかし、病変があるものと比較すると、術後の発作消失率は低下し、約50%程度と言われます。
半球切除術は、一側性の広範な大脳半球性病変が原因で難治性てんかんを生じている場合に適応となります。片側巨脳症、Rasmussen脳炎、Sturge-Weber症候群、広範な皮質形成異常などの症例に行われ、特に最近では、乳幼児の発達の脳に対する影響を考慮し、早期に介入する必要が唱えられており、また半球を切除するのではなく、機能的半球離断と言われる、大脳基底核、視床、血管を温存したまま完全に離断する方法が行われます。術後の発作消失率は70%(片側巨脳症では50%)と高いです。対側の運動麻痺については、既に術前より認められるものは一過性に悪化しますが、術前の状態まで回復します。言語機能(一般に右利きでは左側脳にあるとされる)に関しては、就学前であればある程度回復すると言われています。
脳梁離断術は、Lenox Gastaut症候群の様な、倒れてしまう様な発作(失立発作)に有用です。倒れる発作は著明に減少します。しかしこの手術は緩和手術と呼ばれ、根治術ではありません(発作消失率は8%程度となります)。脳梁を離断した後、自発言語の減少、失禁、左下肢麻痺、など脳梁離断症状と言われる症状が一時的に出現しますが、回復します。10歳以下では離断症候群は出現しません。

これらの他に、笑い発作を主症状とする視床下部過誤腫に対する定位的ラジオ波焼灼術や薬剤抵抗性の難治性てんかんの緩和的手術としての迷走神経刺激治療などがあります。名古屋大学ではこれらの多くの手法を取り入れながら、かつガイドラインに準拠したてんかん外科治療を実施していきます。

医療連携を通した、患者さんのQOLの確保と第三次センターとしての役割の遂行

限られた資源の中で、てんかん医療における質と連続性を確保する為には、職種、専門医、診療科、施設間の連携システムが必要です。現在、一次、二次、三次医療システムの標準化が提唱されています。一次はてんかん患者が最初に訪れる窓口であり、専門性も問わない、「かかりつけ医」です。二次は、神経学専門医(小児神経科、神経内科、脳神経外科、精神科など)が脳波、MRIを使って診断を確定、薬物治療を行います。三次ではてんかんに関与する様々な診療科や職種が集学的グループを形成し、ビデオ脳波モニタリングによる発作時診断や薬物調整、外科治療、食事治療を行います。名古屋大学は第三次てんかんセンターであり、脳神経外科は外科治療の遂行の役割を担っています。
てんかん患者のQOLの確保には様々な部門による治療やリハビリテーション、適切な情報提供を含む患者教育、医療従事者教育が必要となります。てんかんケアとは、多職種の専門家がシステムとして患者と共にQOLの改善を目指す包括的ケアです。

てんかん患者のQOLの確保には様々な部門による治療やリハビリテーション、適切な情報提供を含む患者教育、医療従事者教育が必要となります。てんかんケアとは、多職種の専門家がシステムとして患者と共にQOLの改善を目指す包括的ケアです。
てんかん患者の大きな障害となるのがスティグマです。スティグマとは、不適切な情報や知識に基づく負の標識であり、いわゆる偏見の事です。てんかんは発作がコントロールされていれば通常通りの生活を送れる患者が多い疾患である事を、患者や医療従事者はもとより、家族、学校、会社の雇用者等が理解する必要があります。

また、てんかん患者にとって利用可能な多くの社会福祉サービスや制度があります。手帳制度は精神障害者保健福祉手帳、療育手帳、身体障害者手帳から成り、自立支援医療制度や高額医療費制度、生活費に関する障害年金制度です。これらは原則、申請主義であるため、患者や医療従事者が十分理解して、活用していく必要があります。

てんかんに関する正しい知識の普及、患者や家族へのアドバイスやピアサポート(同様の境遇にある仲間、同志=ピア、による支援)の実施等を目的とする市民団体である日本てんかん協会http://www.jea-net.jp)の様な支援団体も存在します。この様な「てんかん教育」を実施する目的で、我々は他診療科のてんかん治療医(施設内、施設外問わず)や多職種者との定期的なミーティングを実施、患者を対象とした市民公開講座の実施、一次、二次を担当する開業医や近隣病院勤務医対象の勉強会や研究会の実施、に取り組んでいます。

焦点診断、及び手術における先端的技術の開発

てんかん外科において最も重要なのがてんかん焦点診断です。Ludersらは発作症候、神経所見、脳波、画像所見に基づき、症候発現域(symptomatic zone)、易興奮領域(irritative zone)、発作起始領域(seizure onset zone)、機能低下領域(functional deficit zone)を推定し、切除するのに最も適当で最小のてんかん原生領域(epileptogenic zone)を設定しました。この診断の為に、頭皮脳波、CT、MRI、SPECT、PET、頭皮脳波電極によるビデオ脳波モニタリングによる非侵襲的手法による検査を行います(Step 1)。これでてんかん原生領域を絞り込めない場合、頭蓋内に電極を留置しビデオ脳波モニタリングを行うStep 2の検査に進みます。我々は更にこれらの検査に加え、名古屋大学脳とこころの研究センターと連携して、最先端てんかん診断手法として脳磁図、脳波―MRI同時記録(EEG-fMRI)、安静時機能的MRIに取り組んでいます。この様に研究を進める事で、非侵襲的検査技術を改良する事で、侵襲的なStep2の検査を省きたいと考えています。更に高次脳機能を含めた徹底した機能温存を図る為、覚醒下手術も取り入れています。また、名古屋大学にはneuromate®という定位脳手術用ロボットがあります。この技術を使って、沢山の脳内深部電極を正確かつ安全に挿入する方法も、研究テーマとして取り組んでいます(SEEG)。これらの研究の具体例を示します。

図8 title=
<図8:脳磁図(MEG)の例。32歳女性。右側頭葉てんかん。右下側頭回に皮質形成異常を疑う病変あり。MEG解析を行った結果、dipoleがきれいに同部に集積している事が分かる。>

図9
<図9:脳波―MRI同時記録(EEG-fMRI)の例:21歳女性。左帯状回の病変のある帯状回てんかんを繰り返す症例。脳波上の発作間欠期棘徐波と同期して生じるBOLD信号の変化を解析すると、同部に強い集積がある事が分かった。>

図10 title=
<図10:覚醒下手術による左側頭葉てんかんの手術の様子。35歳女性。左側頭葉外側AVMγナイフ後の難治性てんかん。言語優位側であり、AVM瘢痕が側頭葉上方後部まで及んでおり、覚醒下手術でマッピングしながら摘出した。尚、本症例では左海馬もてんかん原生となっており摘出している。>

図11
<図11:SEEGの様子。本症例ではNeuromateを使って、てんかん原生と考えられる瘢痕脳に加えて、症候発現領域、海馬などに合計5本の電極を定位的に挿入した。>

内科外科の垣根を越えたチーム医療による機能的脳神経外科診療

機能外科の分野では、院内院外問わず神経内科から紹介されることが多いですが、定位脳手術を多数行っている施設の多くでは、脳神経外科単独で術前評価を行っています。名古屋大学では、2016年度より脳神経外科、神経内科、言語聴覚士からなるDBSチーム(図12)を立ち上げ、包括的に評価、治療を行っています。

図12
<図12>

当院神経内科もしくは脳神経外科に定位脳手術目的で患者さんが紹介されると、定期ミーティングにて症例が提示され、検査日程や内容の検討が行われます。脳神経外科による手術リスクの評価、言語聴覚士による発声評価や高次機能評価、神経内科によるOn-Offの運動機能、精神症状や自律神経、内服など総合的な評価を行っています。検査結果をミーティングにて検討し、手術部位や術後の方針も含め、議論を深めています。パーキンソン病の場合、全国的には視床下核をターゲットとすることが多いですが、我々は患者さん毎に内服も含めた最適の治療戦略を考えているため、淡蒼球も含めた他のターゲットの手術も、全く問題なく行っています。患者さんの期待に沿える結果を出すためにも、適応を慎重に見極め、患者さんと相談しながら納得いく形で治療を進めています。

術後は電極留置による刺激に似た効果micro lesioning effectがあるため、急性期に刺激の開始、内服の調整を行うと、非常に副作用も出やすく、効果も変動するので、あまり望ましくありません。Micro lesioning effectが切れる頃に再度入院し、刺激条件を調整するためのスクリーニングをDBSチームで行っています。刺激効果や副作用を確認してから刺激を開始することで、副作用の出にくい刺激条件の設定や、将来の副作用の出現も予測できます。刺激部位毎の副作用も把握しているので、外来で刺激条件の変更も安全性が高く容易に可能となります。

実際のスクリーニングの1例を提示します(図13)。刺激する電極の部位が一つ異なるだけで、固縮の改善度に差が出たり、呂律が回らなくなったりなどの副作用が生じることが分かりました。これは脳神経外科医だけの評価ではなかなか判別が困難なことが多いです。

図13 title=
<図13>

また慢性期においても、紹介元の神経内科と連携をとり、刺激や内服の調整を行っていますが、コントロールの難渋する方は、当院神経内科に再度評価を依頼し、シームレスな治療を可能としています。手術さえ行えばよいという施設もありますが、DBSの治療は手術までが半分で、手術後の調整によって、効果の良し悪しが決まってきます。脳神経外科だけで術後を診ることはあまり好ましくないと考えます。名古屋大学では随時神経内科と連携をとり、術後もベストの治療を提供できるように心がけています。

画像誘導及びロボット技術による、正確性及び安全性の高い手術の実現

我々の治療部位とする視床下核や淡蒼球といった大脳基底核は、通常の1.5T MRIでは描出することが困難で、通常は基準線を基にした間接法で座標を決める施設が多いです。名古屋大学では、2015年度より3T MRIを基に大脳基底核の描出を試み、画像を基にした直接法と間接法を組み合わせてプランニングを行っています(図14)。手術当日は定位用フレームを装着後にCTを撮影し、手術前日までに詳細に検討し決めた、プランニングMRIと重ね合わせて座標を決定しています(図15)。実際の神経細胞の活動を記録する微小電極記録(MER)で確認し、至適部位に電極を留置し、時間の短縮と安全性の高い手術が実施できています。

図
<図14>

図
<図15>

また、2016年より後述する定位脳手術用ロボットneuromate®を本格運用し、精度の高い安全な手術を実施しています。neuromate®だけでなく、全ての手技を見直すことで、手術時間も大幅に短縮されています。
名古屋大学では2000年頃から定位脳手術を始め、手術計画や手術法、周術期の管理、術後の刺激の調整など、すべての面においてノウハウをもっており、症例数においても全国で有数の施設です。東海地方においてはNo1の実績を誇ります。患者さん向けの説明会も開催しており、安心して手術を受けていただけるように努めています。