脳腫瘍グループ

概要紹介

最高水準の治療の提供、及びより良い医療・医学開発への取り組み

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脳腫瘍グループは、良性脳腫瘍から悪性脳腫瘍に至る全ての頭蓋内腫瘍を対象として、正確な診断と最高レベルの治療の提供に努め、更により良い医療を目指して研究にも取り組んでいます。臨床面では、術中MRI を用いた正確で高度な画像誘導手術・覚醒下開頭術・電気生理学的モニタリング技術等を駆使した世界最先端の脳腫瘍手術を実践する他、放射線・化学療法等補助療法を含めた集学的治療を行っています。また、名古屋大学内を含め国内外と共同した学際的研究・多施設共同臨床研究を積極的に押し進めていることも大きな特徴です。

スタッフ一覧

現在の名古屋大学脳神経外科のメンバー

  • 研究員加藤 彰Akira KATO(平成7年卒)
  • ポスドク山道 茜Akane YAMAMICHI(平成19年卒)
  • 大学院生CHALISE, Lushun (平成21年卒)
  • 大学院生平野 雅規Masaki HIRANO(平成21年卒)
  • 大学院生西川 知秀Tomohide NISHIKAWA(平成23年卒)
  • 大学院生RANJIT, Melissa (平成18年卒)
  • 大学院生ADILIJIANG, Alimu (平成24年卒)
  • 大学院生前田 紗知Sachi MAEDA(平成29年卒)

関連病院在籍メンバー

  • 岡崎市民病院有馬 徹Toru ARIMA(平成9年卒)
  • いしい外科三好クリニック石井 大Dai ISHII(平成9年卒)
  • 静岡済生会総合病院岩崎 正重Masashige IWASAKI(平成9年卒)
  • あいち小児保健医療総合センター大澤 弘勝Hirokatsu Osawa(平成9年卒)
  • 第二赤十字病院高須 俊太郎Syuntaro TAKASU(平成9年卒)
  • 近畿大学藤田 貢Mitsugu FUJITA(平成9年卒)
  • 海南病院遠藤 乙音Otone ENDO(平成10年卒)
  • 名城病院大井 祥恵Sachie OHI(平成10年卒)
  • すずかけヘルスケアホスピタル久野 智彦Tomohiko KUNO(平成10年卒)
  • 刈谷豊田総合病院島戸 真司Shinji SHIMATO(平成10年卒)
  • 東名古屋病院竹内 裕喜Hiroki TAKEUCHI(平成10年卒)
  • 名古屋セントラル病院竹林 成典Shigenori TAKEBAYASHI(平成10年卒)
  • 中京病院伊藤 元一Motokazu ITO(平成11年卒)
  • なかねクリニック中根 幸実Yukimi NAKANE(平成11年卒)
  • 江南厚生病院伊藤 聡Satoshi ITO(平成12年卒)
  • 名古屋医療センター大野 真佐輔Masasuke OHNO(平成12年卒)
  • 小牧市民病院加藤 丈典Takenori KATO(平成13年卒)
  • 第二赤十字病院岸田 悠吾Yugo KISHIDA(平成14年卒)
  • 愛知医科大学岩味 健一郎Kenichiro IWAMI(平成15年卒)
  • University of Toronto
    留学中
    鈴木 啓道Hiromichi SUZUKI(平成17年卒)
  • University of Pennsylvania
    留学中
    倉光 俊一郎 Shunichiro KURAMITSU(平成17年卒)
  • 大同病院辻内 高士Takashi TSUJIUCHI(平成17年卒)
  • 岐阜県立多治見病院椎名 諭Satoshi SHIINA(平成18年卒)
  • 小牧市民病院山本 高士Takashi YAMAMOTO(平成19年卒)
  • 静岡がんセンター出口 彰一Shoichi DEGUCHI(平成20年卒)
  • 大同病院飯島 健太郎Kentaro IIJIMA(平成20年卒)

診療概要

診療方針

脳腫瘍グループは、良性脳腫瘍から悪性脳腫瘍に至る全ての頭蓋内・頭蓋底腫瘍を対象として、正確な診断と最高レベルの治療の提供に努め、更により良い医療を目指しています。グリオーマなど脳内浸潤性腫瘍に対しては、術中MRIを用いた正確で高度な画像誘導手術・覚醒下開頭術・電気生理学的モニタリング技術を併用する一方、頭蓋底の良性腫瘍および悪性腫瘍には積極的に頭蓋底アプローチを用いて、安全で最大限の腫瘍切除の実現に取り組んでいます。また同時に、新たな診断や治療へと繋がる最先端の研究にも力を入れています。

特徴的な治療

神経膠腫(グリオーマ,glioma)

頭蓋内組織から発生する原発性脳腫瘍のうち約30%を占める、最も多く見られる腫瘍です。脳に染み込むように進展し周囲との境界がはっきりとせず、すべて摘出することは非常に困難です。

図1 典型的な神経膠腫のMRI画像所見
図1  典型的な神経膠腫のMRI画像所見

脳腫瘍の分類については、世界保健機構(WHO, World Health Organization)による悪性度に基づいた分類(予後の良いGrade Iから最も予後の悪いGrade IVに分類する)が一般的です。GradeⅣに相当する神経膠腫は神経膠芽腫(グリオブラストーマ, glioblastoma)と呼ばれ、60歳程度の男性に多く発生するとされていますが、現在の最大限の治療(腫瘍摘出術+術後の放射線化学療法)を行っても、生存期間は非常に厳しい疾患です。一方、gradeⅡまたはgradeⅢのgliomaは低悪性度神経膠腫とも呼ばれ、膠芽腫よりもやや若年成人に好発する悪性腫瘍です。腫瘍の進行は比較的穏やかですが、前述のように正常な脳の細胞に染み込むように増殖していくため、完治するのはやはり困難な疾患です。数年から数十年経ってからより悪性度の高い腫瘍として再発することがあります。
これら低悪性度神経膠腫につき当科の鈴木・夏目らは、日本の多施設からの300例以上の症例および公開されている約400例の症例を合わせた700例を越える大規模な網羅的遺伝子解析を行いました。その結果、IDH1/IDH2およびTP53変異,1p/19q co-deletionといった異常の有無により、低悪性度神経膠腫全体が極めて明確に3つのグループに分かれることなどを明らかにしました(図2)。(Mutational landscape and clonal architecture in grade-II and III gliomas, Suzuki,Natsume et al., Nat Genet. 2015 May;47(5):458-68.)
従来は脳腫瘍組織を病理学的に検査し、形態学的な観点から診断がされていましたが、上記の鈴木・夏目らの知見などをふまえ、2016年にWHO分類も新たに改訂され、遺伝学的な情報を統合した診断がなされることとなりました。

図2 低悪性度神経膠腫における遺伝子異常の全貌
図2 低悪性度神経膠腫における遺伝子異常の全貌

神経膠腫の治療においては、手術による腫瘍摘出が大きな役割を果たしますが、脳という臓器の特性上、いかに正常な機能を温存しつつ最大限の摘出を行うかが大変重要になります。当科では徹底した術前検査を行い綿密な術前計画を立て、術中MRIシステム(図3)や電気生理学的モニタリング、また腫瘍の場所によっては覚醒下手術といった限られた施設でしか行えない最先端の手術を行い(図4)、さらに術後の放射線化学療法もグループ全体でしっかりとサポートし、患者さまに最善の治療を提供できるよう日々努めております。また同時に、上述の通り新たな診断や治療につながる最先端の研究も進めております。

図3 術中MRIシステム(Brain THEATER)
図3 術中MRIシステム(Brain THEATER)

図4 当院でのグリオーマ手術に対する取り組み
図4 当院でのグリオーマ手術に対する取り組み

中枢神経原発性悪性リンパ腫(PCNSL: Primary Central Nervous System Lymphoma)

本来脳内には血液の一成分であるリンパ球は存在しませんが、異常なリンパ球が脳内(あるいは眼球内)のみで異常増殖し腫瘍を形成する疾患が中枢神経原発性悪性リンパ腫(PCNSL: Primary Central Nervous System Lymphoma)です。

図1 典型的な中枢神経原発性悪性リンパ腫のMRI画像所見
図1  典型的な中枢神経原発性悪性リンパ腫のMRI画像所見

古くは放射線治療のみで治療が行われてきましたが、放射線治療のみでは再発率が高く十分な結果が得られませんでした。近年は放射線治療と化学療法の併用治療が有用であることが証明され、DeVIC治療(ステロイド, イフォスファミド, カルボプラチン, エトポシドの併用療法)等を経て、現在は高用量のメトトレキセート(MTX)を組み合わせた治療(HD-MTX治療)が標準治療となっています。当院でもこれまでにDeVIC治療, HD-MTX治療を行ってまいりました。しかしながらHD-MTX治療は腫瘍を良好に制御できるものの、放射線治療により誘発される白質脳症という病態により患者さんの日常生活の自立度が低下することが問題になっています。そのためできる限り化学療法を強化し、放射線治療を減量することが現在のPCNSL治療の課題となっています。
2013年に米国のOmuroらによってMTXに他の3種の抗がん剤を組み合わせて化学療法を強化したR-MPV治療の有効性が報告されました。R-MPV治療ではMTXとリツキシマブ, プロカルバジン, ビンクリスチンを組み合わせることで、放射線治療の減量に成功しました。これまではMTX単剤で治療後に40グレイの放射線治療を行っていましたが、R-MPV治療後は23.4グレイまで減量します(図2)。

図2

本治療によりこれまで放射線治療により引き起こされていた白質脳症の出現率が下がり、より良い結果が得られるものとして期待されています。国内でR-MPV療法を行っている脳神経外科施設はまだ少ない状況ですが、当院では2013年よりR-MPV治療を導入し、現在は第一選択治療として積極的に行っています。R-MPV治療は図1のように2週間を1サイクルとして5サイクルの化学療法を行った後、病変が消失していれば23.4グレイに減量した放射線治療を行います。その後地固め療法としてAra-C治療を行います。当院ではこれまでに14症例(2017年3月時点)の治療を行っており、良好な成績がでつつあり今後も継続していく予定です(治療例:図3)。

治療例:図3

また当院ではPCNSLに対して主に神経膠腫に用いる治療薬であるテモゾロミドを併用する臨床試験に参加しています。当院はJCOG(Japan Clinical Oncology Group:日本臨床腫瘍研究グループ)の参加施設として本試験(JCOG1114試験)に参加していますので、ご希望の方は担当医にお問い合わせください。
PCNSLは上記のように一般的には手術で摘出して根治を目指す腫瘍ではなく、化学療法と放射線治療が主体となる疾患です。そのため手術の主目的は診断をつけることであり、化学療法を術後すぐに開始するためには正確かつ安全、低侵襲な組織採取が必要となります。またR-MPV治療には分子標的薬も含まれるため、治療の適応を判断するためにはより詳細な病理診断・分子診断が重要になります。当院では内視鏡治療グループと連携し、内視鏡手術により低侵襲かつ安全な組織生検を行っています。また腫瘍の部位によっては機能手術グループとの連携により、ニューロメイト等を用いた定位脳生検手術を積極的に行っています。

小児脳腫瘍

小児の悪性腫瘍のうち、脳腫瘍は固形腫瘍(固まりを作る腫瘍)では最も発生頻度が高く、小児悪性新生物全体でも白血病に次いで2番目に多い腫瘍です。発生する腫瘍の種類や部位が成人とは異なるため、症状の経過や治療方法が成人の場合とは異なります。
成人では約9割の脳腫瘍が大脳に発生するのに対し、小児では半数以上が小脳や脳幹に発生します。大脳に生じた場合でも脳の中心付近に高頻度に発生します。腫瘍からの圧迫により、脳や脊髄を保護するために循環している脳脊髄液が通過障害を起こしやすく、水頭症と言われる頭蓋内に水が貯まった状態になりやすいという特徴があります。この水頭症によって頭蓋内圧が高くなってくると、頭痛・嘔吐・ぼんやりする・よろける・目の動きがおかしいなどの症状が出現します。また、具合が悪くても症状を訴えないことも多く、そのためかなり症状が悪化してから初めて発見されることもしばしば認められます。
頻度の高い小児脳腫瘍としては①神経膠腫, ②胚細胞性腫瘍, ③髄芽腫, ④頭蓋咽頭腫, ⑤上衣腫などがあります。小児脳腫瘍はとても多様ですが、小児脳腫瘍の治療に当たる医師は、これらを正確に把握している必要があります。小児の脳腫瘍は、発育期の脳に重大な影響を与えます。また、脳腫瘍を治療するために行う放射線治療や化学療法も、重大な影響を与える可能性があります。
このように小児脳腫瘍は成人の場合とは異なる特徴を持ち、また腫瘍の種類が非常に多く、それぞれの治療法についての効果と副作用とを天秤にかけながら選択していく必要があるため、小児脳腫瘍についての知識と経験を十分に持った医師が治療に当たることが極めて重要となります。当教室では小児脳外科疾患の治療に特化した小児脳神経外科グループを有しております。名古屋大学は小児がん拠点に指定されており、小児脳腫瘍については小児脳神経外科グループと脳腫瘍グループとが綿密に連携しながら、専門的な治療を行っています。

ここでは代表的な5つの脳腫瘍だけを概説します。

①神経膠腫(グリオーマ, glioma)

神経膠細胞(グリア細胞)は、神経細胞と神経線維の間を埋めている細胞です。ここから発生する腫瘍を神経膠腫(グリオーマ)と呼びます。小児脳腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍です。小児においては、ⅰ)毛様細胞性星細胞腫とⅱ)脳幹グリオーマが高頻度に認められます。

ⅰ)毛様細胞性星細胞腫(パイロサイティックアストロサイトーマ, pilocytic astrocytoma)
毛様細胞性星細胞腫は、グリオーマとしては例外的に予後のよい良性腫瘍です。ほとんどのものは摘出可能な小脳もしくは大脳に発生し、手術で完全に取りきれれば治ります。当院では、発生した部位や症状に応じて、適宜術中MRIなどを使用し、完全摘出を目指し手術を行っております(図1)。

図1 毛様細胞性星細胞腫 手術前後のMRI画像所見
図1 毛様細胞性星細胞腫 手術前後のMRI画像所見

一方、脳幹(脳幹グリオーマ参照), 視神経などに発生する毛様細胞性細胞腫は、手術で完全にとり切ることは困難です。残った腫瘍に対しては化学療法、発生部位によっては放射線治療などを行っていきます。自然に小さくなっていくこともあるので、症例によって適切な治療法の判断が難しい場合があります。

ⅱ)脳幹グリオーマ(diffuse midline glioma)
脳幹は中脳, 橋, 延髄からなる細長い部分で、顔や手足の運動と感覚に関する神経線維が走り、さらに呼吸や意識などをも司っている極めて重要な部分です。脳幹グリオーマは脳幹部にできたグリオーマの総称であり、様々なタイプのグリオーマができますが、多くの例が橋にできるびまん性内在性橋グリオーマ(diffuse intrinsic pontine glioma, DIPG)と言われるものです(図2)。

図2 典型的なびまん性内在性橋グリオーマのMRI画像所見
図2 典型的なびまん性内在性橋グリオーマのMRI画像所見

5〜10歳の子供に多く認められます。重要な機能が集まった部分であり、腫瘍が脳に染み込むように広がっていく性質をもっているため、手術で全て摘出することは不可能ですし、無理して生検で診断のみをつけることには否定的な立場を取っています。標準的治療は放射線治療で、一時的には症状が良くなることが多いですが、ほとんどの場合、再増大してしまいます。抗がん剤による治療も様々な方法が試されているものの、現状では有効な治療法は存在しませんが、我々は新しい薬剤の研究開発を進めています。

②胚細胞性腫瘍(germ cell tumor)

胚細胞性腫瘍は胎生期(胎児の時)の原始生殖細胞といわれる、精子や卵子になる前の未成熟な細胞から発生する腫瘍の総称です。小児脳腫瘍としては神経膠腫(グリオーマ)に次いで2番目に多く、15歳前後の子供に発生しやすい腫瘍です。欧米人に比べて東洋人で多いという特徴があります。また、女児に比べ男児に多く発生します。
胚細胞性腫瘍は、脳の中心付近にある松果体と下垂体によく発生します。松果体に発生した場合は、眼を上に向けにくくなるという症状が出ることが多く、また下垂体付近に発生した場合は尿崩症(にょうほうしょう)という、脳から分泌されるホルモンの生成・反応が低下することで薄い尿が大量に出てしまう状態になることがあります。
一口に胚細胞性腫瘍と言っても様々な腫瘍が含まれ、腫瘍のタイプによって治療法や治療成績が大きく異なります。血液中や髄液中のマーカーや腫瘍の一部を採取して顕微鏡で診断します。また、実際には一つの腫瘍の中にこれらの成分が混ざったタイプの腫瘍も多く認められ、治療方針の決定をより困難にしています。胚腫(germinoma)は胚細胞性腫瘍の中で70%程度と最も高頻度に認められるものです。放射線治療や化学療法による治療が有効な腫瘍であり、10年生存率は80-90%程です(図3)。

図3 胚腫 治療前後のMRI画像所見
図3  胚腫 治療前後のMRI画像所見

成熟奇形腫(mature teratoma)は手術で全て摘出できれば治りますが、その一方で放射線,化学療法などが極めて効きづらい腫瘍です。胎児性がん(embryonal carcinoma),絨毛がん(choriocarcinoma),卵黄嚢腫(yolk sac tumor)などは極めて悪性であり、手術と放射線治療に加えて抗がん剤による治療を行っても、完治しにくいのが現状です。当院では基本的に、手術とともにシスプラチン,エトポシド,イホスファミドを用いた化学療法(ICE療法)と、脳中で産生された脳脊髄液が通過する腔(脳室)に放射線照射を行う全脳室照射を組み合わせて、小児科と放射線科と協力して治療を行っておりますが、腫瘍の性格や広がり、患者さんの経過や全身状態などを考慮して、一人一人に合わせた治療を行っております。

③髄芽腫(メデュロブラストーマ, medulloblastoma)

小児脳腫瘍としては3番目に多い腫瘍であり、5歳前後の子供に多く見られます。その細胞起源は幾つかの仮説はあるものの、はっきりとは分かっていません。小脳の中央部付近に発生し、頭痛・吐き気・歩行がおぼつかないことなどが一番初めの症状になることが多いです。水頭症(脳脊髄液の通過障害)を起こし、症状が急激に悪化することもあります。この腫瘍は極めて悪性ですが、手術によって全て摘出できれば治る可能性が高まることが知られています。脳内や脊髄に播種(作物の種をまく様に、腫瘍が散らばって広がること)しやすい性質があるために、手術後には脳と脊髄に放射線治療、さらに抗がん剤による治療を加えます。

図4 髄芽腫 治療前後のMRI画像所見
図4  髄芽腫 治療前後のMRI画像所見

もともと非常に患者生命予後が悪い腫瘍でしたが、治療法の改善に伴い最近顕著に治療成績が向上してきています。しかし一方で、治療による身体の発育や知能発達などへの影響が問題になってきています。3歳未満での発症、脳脊髄への播種が見られる患者さんは、生命予後が悪いことが知られています。
最近の知見により、手術にて摘出した腫瘍の分子診断(腫瘍に含まれるDNA,RNAなどの分子を調べ、それに基づく診断を行うこと)を行うことで、性格の異なる3ないし4種類に分けられることが明らかとなってきています。現在当院でもこのような分子診断を行える体制作りを進めており、近い将来分子診断の結果を踏まえた治療を行っていく予定です。

④頭蓋咽頭腫(クラニオファリンジオーマ, craniopharyngioma)

下垂体と視神経の近くに発生する良性の腫瘍で、転移することはありません。胎生期の頭蓋咽頭管が消えずに残ったものから発生する先天性腫瘍と考えられています。小児脳腫瘍では4番目に多く、大人にも発生することが知られています。膜とオイル状の液体と石灰化で構成されます。下垂体は鼻の奥の真上にあり、ホルモンの分泌をすることで、体のさまざまな機能を制御しています。この腫瘍が下垂体を圧排することにより、成長ホルモンの分泌障害から身体の発育不全を起こします。腫瘍の広がり方により症状は様々ですが、水頭症(髄液の通過障害)による頭痛・嘔吐や、視神経を圧迫することで、両目の外側が見えにくくなるなどの症状を引き起こすこともあります。良性腫瘍で境界が明瞭であることより、膜を含めて全て摘出することが出来る腕のいい脳神経外科医を探すことが重要です。

図5 頭蓋咽頭腫 手術前後のMRI画像所見
図5  頭蓋咽頭腫 手術前後のMRI画像所見

WHO分類では良性腫瘍となっており、多くの施設では液体成分だけを抜くだけに留めたりしていますが、再発は必死です。漏れ出た液体成分が膜と正常脳や下垂体とくっつき、再発後の手術をとても難しくします。1回目でいかに取り切るかで勝負が決まると言っても過言ではありません。一方、積極的に全て摘出することを目指すほど、手術後にホルモン異常などの障害が強く出現しやすくなるというジレンマもあります。ホルモンが不足する場合には、薬によるホルモン補充療法を行います。腫瘍を全て摘出できなかった場合には、放射線治療が有効です。良性腫瘍ではありますが、再発の多い腫瘍であり、長期にわたって丁寧な経過観察が必須な腫瘍です。

⑤上衣腫(エペンディモーマ, ependymoma)

脳室という、脳脊髄液が産生され通過する腔の壁を作る上衣細胞が腫瘍化したものです。小児脳腫瘍の4%程度を占めますが、乳幼児に限ると20%程度に至ると言われています。脳室の壁から発生しますので、上衣腫が大きくなると脳脊髄液の流れを妨げ、水頭症(髄液の通過障害)を引き起こすことがあります。上衣腫は手術で全て取れたかどうかによって、治療成績が大きく異なります。手術で取りきれず残ってしまった腫瘍に対しては、放射線治療や化学療法による治療を行いますが、化学療法がとても有効であったという報告は、残念ながらあまり多くありません。また、脳の別の部位や脊髄に播種する可能性もあるため、手術中の操作には十分注意をしなくてはなりません。
上衣腫が治るかどうかは手術で完全に取りきれるかどうかがとても大きな要素になるため、この疾患の手術に習熟した脳外科医が治療に当たることが極めて重要になります。

図6 上衣腫 手術前後のMRI画像所見
図6  上衣腫 手術前後のMRI画像所見

良性腫瘍
①髄膜腫(メニンジオーマ, meningioma)

髄膜腫は脳の表面にある「くも膜細胞」から発生するとされ、脳腫瘍の中では発生頻度が高い腫瘍です。中高年の女性に多く発生し、大部分はWHO分類GradeⅠの良性腫瘍です。しかし頻度は低いもののGradeⅡやⅢの悪性髄膜腫も存在します。また多くは遺伝的背景のない孤発性のものですが、一部には神経線維腫症2型に代表される遺伝性疾患に伴うものもあります。頭蓋内のさまざまな場所に発生し、脳を包む硬膜に接着しています(図1)。腫瘍が小さいうちは無症状ですが、緩徐に増大することでまわりの脳や神経を圧排し頭痛・けいれん発作・視力障害・聴力障害・手足の麻痺、その他発生部位により様々な症状を引き起こします。頭部MRIにより容易に診断され、比較的均一に造影される腫瘍が描出されます。脳との境界は明瞭です。血流の豊富な腫瘍であることが多く、血管造影検査を行うこともあります。

図1 さまざまな部位に発生した髄膜腫のMRI画像所見

脳の表面近くに発生した髄膜腫
脳の表面近くに発生した髄膜腫

脳深部に発生した髄膜腫
脳深部に発生した髄膜腫

頭蓋底髄膜腫
頭蓋底髄膜腫

髄膜腫の治療法は、手術による摘出が基本です。腫瘍が小さく症状がない場合は経過観察することもあります。症状が出ている場合、または今後症状が出てくる可能性が高いと予測される場合には治療を考慮します。開頭術(場合によっては経鼻内視鏡手術)により腫瘍を摘出することで脳・神経圧迫による症状を改善させます。小型のものでは定位放射線治療が可能な場合もありますが、第一に考慮する方法ではありません。手術と同時に病理組織診断を行い、良性・悪性を見極めることもその後の治療方針を決めるために重要となります。図1に示したような脳の表面近くに発生したものは比較的摘出が容易ですが、それでも大型になると脳実質や脳血管との癒着がみられるため、摘出の際には注意を要します。また頭蓋底部に発生したものは、腫瘍へ到達するために【頭蓋底腫瘍】の項目で述べるような頭蓋底外科手技が必要となることがあります。腫瘍が取りきれれば完治が期待できますが、脳深部や頭蓋底に発生した腫瘍の場合は、重要な血管や神経を巻き込んでいて取りきることが難しいこともあります。その場合、意図的に腫瘍の一部を残し、術後慎重に経過観察したり、再発抑制のために定位放射線治療を行うこともあります。腫瘍の発生部位, 大きさ, 患者さんの状態などから手術に伴うリスクを予測し、脳機能温存を優先した手術を行います。

②聴神経腫瘍 (acoustic tumor)

聴神経とは、聴覚に関係する蝸牛神経と、体のバランス感覚に関係する前庭神経が一束となり走行するものを指します。聴神経腫瘍のほとんどはその中の前庭神経を包んでいる細胞から発生する良性脳腫瘍で、「前庭神経鞘腫」ともいいます。髄膜腫と同様に、成人の女性に多く発生します。多くは遺伝的背景のない孤発性のものですが、髄膜腫と同じく神経線維腫症2型に代表される遺伝性疾患が原因となる例もあります(図4)。脳幹と小脳の脇の部分に発生し、内耳道という骨に囲まれた部分にも伸びていきます。これらは頭部MRI検査により比較的容易に確認できます。最も現れやすい症状は片側の聴力障害で、耳鳴りや突然の聴力低下をきたす場合もあります。バランス感覚は障害されてもそれを補う機能が働きますが、めまいやふらつきが起きる場合もあります。片側の顔面の感覚障害・痛み(三叉神経痛)が出ることもあります。頻度は高くないものの、片側の表情筋の麻痺(顔面神経麻痺)が生じる場合もあります。腫瘍が大きくなると、複視(ものが二重に見える)・飲み込みの障害・歩行障害などもきたします。また、脳脊髄液の循環が悪くなり水頭症を発症する可能性もあります。

図2  大型の聴神経腫瘍
図2 大型の聴神経腫瘍。左側の聴力は術前から失われていました。電気刺激モニタリングを駆使して顔面神経を温存し、腫瘍の大部分を摘出しました。

図3  中型の聴神経腫瘍
図3 中型の聴神経腫瘍。術前から右側の聴力は失われ、明らかな顔面神経麻痺を生じていました。
電気刺激モニタリングを駆使して顔面神経を温存し、腫瘍の大部分を摘出しました。術後、顔面神経麻痺は軽い麻痺へと改善しました。

図4  神経線維腫症2型に伴う小型の両側聴神経腫瘍。
図4 神経線維腫症2型に伴う小型の両側聴神経腫瘍。左側の聴力が低下してきたため、内耳道の開放と腫瘍の部分摘出を行いました。聴力は温存され、経過観察中です。

図5  小〜中型の聴神経腫瘍
図5 小〜中型の聴神経腫瘍。右側の聴力低下を生じていました。患者さんの希望でガンマナイフ治療を選択しました。

聴神経腫瘍の治療法は、腫瘍の大きさにより分けて考える必要があります。3cm程の中型の腫瘍やそれ以上の大型の腫瘍に対しては、手術による摘出を考慮します(図2, 3)。手術方法は複数考案されていますが、多くは脳神経外科医がよく行う「外側後頭下開頭術」を用います。これは耳の後ろから腫瘍に到達する方法で、比較的広い術野が得られ、様々な大きさの腫瘍に対応することができます。手術における重要なポイントの一つとして、顔面神経をいかに温存するか、ということが挙げられます。顔面神経は腫瘍に圧迫されて薄く広がっているため、手術中に肉眼的に見えないことが多くあります。顔面神経の電気刺激モニタリングを駆使することにより顔面神経の位置を確認し、その機能の温存に努めます。3cm未満の腫瘍に対しては、実用的な聴力が残っている場合、前述の顔面神経に加えて聴力(蝸牛神経)温存を考慮した手術を行います。実用的な有効聴力が残っていない場合は、聴力温存は見込めません。術中聴性脳幹反応と呼ばれる、耳への音刺激から脳波を持続的に測定することにより、聴覚機能の温存を確認しながら手術を行います。大きさが2.5cm以下の小型腫瘍の場合は、ガンマナイフ等の放射線治療の有効性も報告されているため、必ずしも手術を勧めることはありません(図5)。聴神経腫瘍は良性腫瘍であるためMRI検査をしながら経過観察することも可能であり、患者さんとよく相談した上で、その時の状態に適した治療方針を提案しています。

頭蓋底腫瘍

頭蓋底腫瘍とは、頭蓋底部(脳の底の部分)に発生する腫瘍の総称です。髄膜腫, 神経鞘腫, 頭蓋咽頭腫, 脊索腫, 軟骨肉腫, グロムス腫瘍(傍神経節腫)など様々な腫瘍が含まれます。またこれら脳神経外科が担当する腫瘍の他にも、頭頸部外科が担当する副鼻腔癌, 唾液腺癌, 皮膚癌, 外耳道癌のように腫瘍が頭蓋底近くにある場合は、頭蓋底の骨を大きく切り取って腫瘍をひとつの塊として取ることがあります。
手術で取りきれて治る場合もありますが、大きな腫瘍で重要な脳・神経・血管構造を巻き込んでいる場合は完全摘出が難しいため、安全な範囲でできるだけ腫瘍を摘出した後、定位放射線治療などを行います。十分な術前シミュレーションを行い、目標とする摘出範囲と守るべき神経や血管を見定めておくことが重要となります。術中には電気生理学的モニタリングやナビゲーションを駆使することで、脳機能の温存と最大限の摘出を目指します。

頭蓋底外科手技(図1):腫瘍に到達するためには標準的な開頭術だけでは正常な脳を引っ張ることによる負荷が大きくなり、脳を損傷するリスクが高くなってしまいます。そこで頭蓋底外科手技を用いて骨を削ることにより、広い術野が得られるとともに脳への負担を減らして腫瘍に到達することが可能となります。

頭蓋底外科手技(図1)
図1 標準的な開頭術(青色破線)による腫瘍への到達ルート(青色矢印)と、頭蓋底外科手技を用いた骨削除(黄色破線)による腫瘍への到達ルート(黄色矢印)。術野が広がるとともに正常な脳を引っ張ることによる負担を減らして腫瘍に到達できます。

経鼻内視鏡手術の併用(図2〜5):頭蓋底の中心部や下方へ広がる大きな腫瘍の場合は、開頭術だけでなく経鼻内視鏡手術を組み合わせた同時手術が有用です。異なる方向からお互いの視野を確認し合いながら協力して摘出作業を行います。腫瘍の摘出度が向上するだけでなく、守るべき血管や神経をそれぞれの方向から確認し合いながら手術を行うため、単独で手術を行うよりも安全性が高いと言えます。
頭蓋底外科手技(図2)
図2 頭蓋底外科手技を用いた開頭術による到達ルート(黄色矢印)と、経鼻内視鏡手術による到達ルート(緑色矢印)。これらを同時に用いることで腫瘍摘出度と安全性の向上が期待できます。

図3  開頭術と経鼻内視鏡手術の同時手術の様子。
図3 開頭術と経鼻内視鏡手術の同時手術の様子。患者さんの頭側に開頭術チームを配置し顕微鏡下手術を行います。患者さんの体側には経鼻内視鏡チームを配置し、モニター画面を見ながら手術を行います。

図4  頭蓋底から上方へ増大した髄膜腫。
図4 頭蓋底から上方へ増大した髄膜腫。頭蓋底外科手技を用いた開頭術と経鼻内視鏡手術の同時手術により腫瘍の大部分を摘出しました。重要な動脈や神経が走行するところに腫瘍の一部を残し、術後定位放射線治療を行いました。

図5  頭蓋底からさらに下方へと増大した再発髄膜腫。
図5 頭蓋底からさらに下方へと増大した再発髄膜腫。開頭術と経鼻内視鏡手術の同時手術により、安全な範囲で腫瘍の大部分を摘出しました。術後、定位放射線治療を行いました。