「Columbia University留学記」辻内高士

Columbia University留学記

【氏名】辻内高士(平成17年卒)

2014年から約3年間、アメリカ・ニューヨークにあるColumbia大学脳神経外科教室に留学をさせて頂きました。

私が留学のお話を頂いたのは2013年春頃でした。島戸真司先生が以前留学しておられた研究室で、Convection Enhanced Deliveryの研究に従事する研究者を求めているとのことで、島戸先生、夏目敦至准教授を通してお声掛けを頂きました。Convection Enhanced Deliveryとは、脳(腫瘍)内にカテーテルを留置し、ポンプを用いて薬剤を少量持続的に投与することで、従来の局所投与に比べより広範囲、高濃度かつ均一に薬剤を届ける方法です。私も名古屋大学で夏目准教授の下、同研究に従事しており、臨床にも近く大変興味のある分野でした。また、留学先のJeffrey Bruce教授はこの分野の第一人者であり、かつ手術にも大変秀でた先生であるため、自分にとってはこれ以上ない留学先でした。留学の約1年前に一度単身で渡米してBruce教授の前でpresentationを行い、postdoctoral researcherとして働く許可を得ました。苦手な英語で初めてのpresentationは大変緊張したのを覚えています。

ニューヨークでは、Bruce教授と共にglioblastomaの研究をされているPathologistのPeter Canoll先生の指導を受け、Canoll先生が開発されたマウスのGBMモデルを用いて様々な研究を行いました。Canoll先生は様々なラボとの共同研究をしておられ、そのいくつかを担当させて頂くことで後に共著者として名前の入る研究に従事させて頂きました。一方で自分のテーマとして行っていた、様々な新規薬剤を用いたマウスGBMモデルに対するConvection Enhanced Deliveryについては、in vitroでは効果を認めるもののin vivoでは結果が出ない悩ましい日々が続きました。

渡米して1年半が経過した頃、Bruce教授の弟子のDr. Adam Sonabendが新たにラボを立ち上げることになり、そこに参加することになりました。Adamは脳外科医としてはレジデントを終えたばかりでしたが、研究者として非常に優秀で、全米で年に数人しか選ばれない若手研究者向けの大型グラントに脳外科医として初めて選ばれたところでした。彼は非常に発想が豊かで、彼とのディスカッションはとても楽しく、刺激的でした。私はAdamラボのin vivo研究を全て担うことになり、動物施設内の場所の確保から、様々な申請書類の作成、動物実験プロトコールの作成など、拙いながらも何とか通じるようになった英語で奮闘しました。苦労した分、主体的に実験を進められるようになり、免疫編集機構が脳腫瘍形成過程の遺伝子変異に関わっている可能性を示すなど、非常に興味深い実験結果を得ることができました。またAdamとはお互いの子供の年齢が近かったこともあり、仕事上だけではなくプライベートでも家族ぐるみの付き合いをさせてもらい、Adamの息子のバースデーパーティーに誘ってもらったり、逆に我が家のホームパーティーに来てもらったりと、私にとってアメリカでできたBest Friendとなりました。

約3年間の留学生活を終えて、今では自分の様々な物に対する見方が変わったことを実感しています。日本人は外国人と話す時思わず身構えてしまいがちで、私もそんな典型的な日本人の一人でした。しかしながら私の在籍していたラボには、アメリカ、メキシコ、ペルー、エクアドル、フランス、ギリシャ、ドイツ、ルーマニア、ナイジェリア、そして中国、韓国、インドなど本当に様々な国の研究者が在籍しており、彼らと接し、同じ人間であることを実感して、遥か彼方に感じていた世界がぐっと近くに感じられるようになりました。同様に世界トップレベルの研究は遥か彼方に感じていましたが、実際その現場を目にしてみると、実は諸先輩方が築き上げて下さった名古屋大学脳神経外科の研究も非常に高いレベルにあるのだということに、改めて気付かされました。

私は正直に申し上げて、多くの留学された先生方のようにずっと海外留学をしたいと思っていた、という訳ではありませんでした。しかしながら留学を終えた今となっては、苦労も含め、懐かしく良い思い出しかありません。私のような人にこそ、世界を知るためにぜひ留学をして欲しいという思いでこの留学体験記を書かせて頂きました。

このような留学の機会をくださった若林俊彦教授、夏目敦至准教授をはじめ脳神経外科医局の諸先生方、またBruce教授を紹介してくださった島戸真司先生に、この場をお借りして心よりお礼を申し上げます。